転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 18
話を続けても大丈夫だろうか、と様子をうかがっていると、お義母様から「貴女はどこの家の子なの」と問われた。
「私(わたくし)は全ての家の子に声をかけたはずです。それこそ、没落が決まる直前の男爵家まで。――でも、我が家に来てくれる令嬢はいなかった」
――……当然、そうなるよなあ。
国中の貴族令嬢に婚約を断られて、平民に手を出しても三人に逃げられ、唯一出た夜会ではその顔を見て失神者続出。
ディルミックの顔面評価についての噂は、どこまでが事実なのか、わたしは未だに全貌を知っているわけではないけれど、三人の平民に手を出したのは事実だというのは知っている。となれば、その前段階の、国中の令嬢から結婚を断られたというのも本当、ということになる――というのは分かっていたが。
……というか、わたしにどこの家の令嬢だと問うということは、わたしよりも前に嫁いできたはずの、三人の平民については一切知らないのだろうか。子供ができるできない以前に、こうやって知られるまもなく、かつての三人はディルミックの元を去ったのか。
「――平民です」
これもまた、隠しようがないのでわたしは素直に答えた。グラベイン人ですらないので、誤魔化しようがない。グラベインの貴族家の数は、王子の婚約パーティーのときにある程度教えて貰ったけど、もうすっかり覚えていない。
「貴女の息子は、貴族としてのプライドより、血を残すことを優先したようだよ」
王子が、わたしの言葉の後に、そう付け加える。
「――……へい、みん……」
呆然と言葉を繰り返すお義母様。驚きが消えない表情では、平民を嫌悪し許せないのか、それとも、平民でもいいから来てくれたと思っているのか、分からない。
でも、平民がカノルーヴァ家へ嫁入りするなんて! という反応が来るだろうな、と思っていたから、怒るでもなく、嫌がるでもない様子のお義母様に、用意していた言葉を伝えるわけにはいかない。喚かれるかな、と思ってなだめるか逃げるかするパターンはいくつか想定していたけれど、こんなにも静かに話が進んでいくとは思っていなくて、わたしは逆にどきどきしてきてしまった。
頭を回転させて、話の続きを、と思っていると、先に我を取り戻したお義母様が口を開いた。
「――成程、お金目当てなのね」
お義母様の声音には、嫌悪ではなく、納得の色の方が強かった。
めちゃくちゃ事実なので、わたしは何も言い返せない。
確かに、今でこそ、ディルミックを愛し、尊敬しているけれど、きっかけはまさしくお金……ッ! お義母様の言う通りなのだ。
違うんです、と言いたくても、言い返せない。何も違わないから。
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