転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 02.5

 少し気まずそうに、僕の様子をうかがうようにして、ロディナが本館に移らない理由を聞いてきた。

 きっと、今までも気になっていただろうに、尋ねてこなかったのは、彼女なりの気遣い、というところだろうか。

 しかし、このタイミングで質問してきた、ということは、何も興味本位だけ、というわけではないに違いない。子供ができたのだ。いつまでも隠し通せるないようではないだろう。


「……本館には、母がいるんだ」


 「母親」とロディナが、幼い口調で繰り返す。


「母親――そうか、ディルミックにも母親がいますよね。人間は自然発生しませんもんね」


「……君は僕をなんだと思っているんだ」


 ロディナの言葉に、僕は少し呆れたような口調で返してしまう。こんな僕にだって、両親はいる。


「家族の話を、ディルミックから聞いたことがなかったので」


 しかし、続く言葉に、僕は反論できなくなってしまった。

 ロディナ自身、両親に思うところがあるのか、積極的に家族の話をすることはない。それでも、彼女の母親とのことは聞いているし、ロディナの生まれ育った村に行った際、彼女の祖父に会っている。僕の方がまだ、相手の家族というものを知っている。

 いつまでも、僕だけが黙っているわけにはいかない、か。


「母は、僕を産んで以来、すっかり気を病んでしまってな。今は部屋で療養している」


 今は、というより、僕の幼い頃からずっと、ではあるが。


「部屋で療養しているとはいえ、あまり会わない方がいいかと思ってな」


 時折、部屋の外に出て暴れることもあるらしい。僕を殺して、産んだことをなかったことにするために暴れると、セヴァルディから何度か報告を受けている――という話までは流石にしない。そんな話までは、ロディナに聞かせたくない。身重の体にも悪影響だろう。


 醜い僕を産んだことで、散々責められた母。それまで、女児しか産めていなかったことも大きいだろう。加えて、僕の代わりを産もうとしても、生まれたのはやはり女児。そこからは、ストレスか加齢か、子供には恵まれなくなった。

 跡継ぎにできる唯一の男児が、あまりにも醜い子供で、幼少期の頃から、すでに縁談はこず、一般的な貴族では考えられないほどだ。


 僕がロディナと出会うまで、常々、僕でカノルーヴァ家は絶えると思っていたが、周りもそう思っていたのだろう。

 嫁をもらえない男児を産んだ母を、周りは絶対に許さなかった。

 僕は悪くない、と思いたかったが――母を想うと、どうしても、こんな僕が生まれてしまったから、と考えずにはいられないのだ。

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