転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 03
――母親、かあ。
日中、いつもの散歩をしながら、昨晩のディルミックの言葉を思い出していた。
わたし自身、前世も今世も、母親にいい思い出がない。だからこそ、話し合ってどうにかなる家族ばかりではない、というのは身をもって理解している。
血のつながりというものは、重くて強いから、他人よりも、切り捨てにくいというのは分かる。でも、それだって限度がある。わたしの母たちはそのラインを超えてしまったけど――。
――……多分だけど、ディルミックはまだ、わたしと違って、母親のことを嫌いになりきれていないのだと思う。
昨日の、母親のことを語る彼の表情を見る限りでは、そんな感じがした。嫌悪を持つわたしと違って、寂しそうな顔をしていた。
だからといって、わたしが何かできることがあるか、と言うと、思いつくことはこれと言ってない。
そもそも、わたし自身、母親のことを許せず和解できないまま、ここまで来ている人間だ。わだかまりのある身内との仲直りの方法なんて知りようもない。
本館に乗り込んで、あれこれする、だなんて暴挙、流石にナシだとわたしにも分かる。実践したら能天気過ぎ。一年もグラベインに住んでいれば、なんとなく、お国の空気というのもは察せられる。
でも――でもさあ、このまま黙って、「あっ、そうなんですね」で終わらせるのも、なんだかもやもやしてしまう。
ディルミックが諦めているのならまだしも、嫌いになり切れず、割り切れていない様子なのだから。
ディルミックを産んでから気を病んで、というのなら、なんとなく原因は分かる。どうせ、醜い子供を産みやがって、とかそういうアレでしょ。あんなに美人なのに……。
人の価値観というものは、そう簡単に変わらない。わたしがいまだに、前世からの美醜観に染まっていて、今世の感覚に同意できないまま育ったのがいい例である。
だからこそ、気を病むまでに至ったディルミックの母親の考えを変えるのは相当難しいと思う。義叔母様は最大限ディルミックに歩み寄ってくれていると思うけど、あれが特例なのだというのは、今のわたしになら分かる。
一緒に住むのは無理、和解して、母親の役を求めるのも不可能。だとしても――今のディルミックは不幸ではないし、さげすまれる存在ではない。そう、伝えられたら。
……ま、そんな方法が簡単に思いついたら、苦労はしないし、こんな温室の片隅でぐるぐる考え込まなくてもいいんだけどね。
「――はぁ、そろそろ……」
部屋に戻ります、とは言えなかった。すっと、不自然にノルテがわたしを隠すように、動いたからである。ついさっきまで、わたしの近くに控えるようにしていたのに。
なんだろう、と思ってノルテの方を見ると――ノルテ越しに、ドレスの裾のようなものが目に入った。
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