転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 02

 夜、寝る前の時間は、もっぱらディルミックととりとめのない会話をする時間となった。普段より、一日仕事をしているディルミックと会話ができるのは、食事の時間が被ったときか、寝る前くらいしかない。


「そういえば、今日、人がやたら出入りしてましたけど、何かあるんですか?」


 半分くらい寝ながら、わたしは昼間、ディルミックに聞こうと思っていたことを思い出して聞いてみた。


「ああ、別館を新たに増築する予定だ」


「ぞうちく……ぞ、増築!?」


 なんてことない風に言うディルミックに流されて、そのまま聞き流しそうになってしまったが、増築って今言った!?

 ほとんど夢心地で会話をしていたけれど、まさかのワードに眠気が吹っ飛んでしまった。


「子供の部屋がないだろう?」


 いや、確かにそうだけど……。

 この別館には、わたしとディルミックの私室、それから今いる共用の寝室しか個室がなく、あとは食堂や厨房、使用人用の部屋など、とてもじゃないが個人の部屋にできそうな場所はない。

 だ、だからってわざわざ建てるのか……? 最低でも男二人、女一人と、三人も子供を欲しがっているのに、部屋が少ないなとは思っていたけど……。


 ――……本館の方は使わないのかな。


 ずっと聞けずにいた言葉を、わたしはどう伝えたものか、迷っていた。

 明らかにディルミックを隔離するために作られたと様子のこの別館。ディルミックの性格からして、家督を継いだ後も、本館に戻る理由がないから、ここを使っているのかな、と思ったけれど……。わざわざ増築するというのなら、もっと別の理由があるのかもしれない。


 わたしがこの屋敷に来たとき、契約書を書かされたのは本館だったし、本館から別館に案内されたところを見ると、ディルミックが一切本館に立ち入ってはいけない、というルールがあるわけではないだろう。

 それに、本館の方には本館の方で使用人が結構いるみたいだし。そもそも、義叔母様が来たときに泊っているのは本館の方だから、ディルミックがいないからといって、全く使用されていないわけではないはず。

 何かよっぽど嫌な思い出があるのかな。


 子供を産むためにここに来た当初ならいざ知らず、今なら聞いてもいいだろうか、と思う反面、わたしが質問することでディルミックが嫌な思いをするなら、今まで通り、なにも見ない、聞かないようにするのがいいんじゃないかと思う。


「……あの、なんで本館に移らないのか、聞いてもいいですか……?」


 それでも、ずっと一緒にいるなら、目をそらし続けていいようなことでもないだろう。

 せめて理由だけでも教えてもらえないだろうかと、わたしは勇気を振り絞って聞いてみた。

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