転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 01
ペルタさんから妊娠を告げられて、早二か月。今のところ、体調にあまり変化はない。時折、妙に眠いな、と体がだるくなることもあるが、長めに昼寝をすればなんとかなっている。
妊娠したら、つわりが酷くてご飯が食べられなくて、と体調不良が大変そうだ、というイメージがあったけれど、全然たいしたことはない。眠い、だるいと思ったらすぐ横になれて、仕事も家事もしなくてよくて、文字通り何もしなくていい状況だから気が付きにくいだけかもしれない。
それか、まだ、そういった分かりやすいつわりみたいなものはこれからくるのだろうか。……うーん、このまま終わってくれればいいけど。
子供を産む、という契約内容でここに来たからには覚悟は決まっているが、それはそれとして、つわり等がひどくならないまま終われるのならそれに越したことはない。
「奥様。そろそろ少し外を歩かれてはいかがでしょうか」
わたしは声をかけられて、パッと読んでた絵本から顔をあげる。
「もうそんな時間?」
わたしに散歩を提案してくれたのは、ノルテという、中年女性のメイドだった。今までは夜勤としてこの別館に勤務していたメイドらしいが、わたしが妊娠したことをきっかけに、日勤だったミルリと入れ替わって、昼間のわたしの面倒を見てくれている。
ノルテはすでに子供を成人させ、再雇用されたメイドらしい。確かに、結婚も妊娠もまだなミルリよりは、あれこれ分かっていそうだ。こっちに来てから一年間、ずっとミルリが傍にいたから、昼間にミルリがいないことに慣れていないけれど、でも適材適所ってやっぱりあるからそこは仕方ない。
以前までは、昼間は、勉強をしているか、義叔母様からマナーレッスンを受けているかのどちらかだったけれど、最近は散歩と昼寝が追加された。安静に、無理をしないのが一番ではあるけれど、かといって全く運動しないのもどうかと思うし、散歩の消費カロリーが高いとは言えなくとも、体を動かすことはいいことだろう。
わたしは絵本を閉じて本棚に戻し、立ち上がる。ちなみにこの本棚は、最近ディルミックが買ってくれたやつだ。わたしがグラベイン文字を着実に読めるようになると、ディルミックが絵本や児童書をプレゼントしてくれるようになって、それを収めるために買ってもらったのだ。この絵本も、もう少ししたら子供に読み聞かせるようになるのかな。無駄がなくていいね。
身支度を終え、わたしたちは別館を出る。わたしの散歩コースは、大体決まって温室だ。距離的にも丁度いいし、温室には花が咲いているので、眺める分には丁度いい。温室で一日を過ごすのは割と暇で苦痛だったけれど、花が咲いている場所を歩いて運動にするくらいならそうでもない。
「――……?」
ふと、今日はなんだか外に人が多いことに気が付く。妙に増えた人は、皆、ツナギのような作業服を着ていた。何かあるのかな。温室の花の植え替えとか?
不思議に思いつつも、不審者というわけではないようなので、夜にでもディルミックに聞こうか、と思いながらわたしはノルテと共に温室を目指すのだった。
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