転生守銭奴女と卑屈貴族男のお土産事情 02

 すっっっっかり忘れてた。

 いや、ディルミックが新婚旅行で花を一輪くれたことは覚えている。押し花にして、写真立てに入れて、いまだに飾っているし。


 ただ、その花とこの工芸茶の花が一緒だということは、すっかり忘れていたのだ。

 工芸茶ではなく、花弁を入れた茶葉のものはすでに何度か出していて気が付かれなかったから、意図的に外すことを忘れていたのだ。流石に丸ごと花を使う工芸茶だったら気がついてしまったか……。


「……無知とは、恐ろしいな」


 どこか遠い目でディルミックがティーポットを眺めている。数年越しに、自分がやらかした間違いに気がついて恥ずかしいのかもしれない。


「で、でも! わたしは花をもらえて嬉しかったです! それに、そのまま渡してくれたから、こうして取っておくこともできましたし!」


 わたしは飾っていた、押し花が入った写真立てを取ってディルミックに見せる。色あせてすっかり紫色ではなくなってしまったけれど、わたしはいつでもあの紫を思い出すことができる。


 確かに、何も知らないマルルセーヌの人から見たら、わざわざ飾っているなんて、違和感のある押し花かもしれないけど! でも、わたしにとっては特別で、大切な一輪なのだ!

 ……という励ましは、流石に、今のディルミックへはトドメになってしまうだろうか。


「……でも、花を贈ってくれたこと、覚えてくれてたんですね」


 新婚旅行を終え、わたしが部屋にこの押し花を飾り始めてから何度もディルミックがわたしの部屋に出入りすることがあったけれど、一度もこの押し花に言及することはなかった。わたし一人だけが、この花のことを覚えているものだと思っていたけれど――そうじゃなかったらしい。


「覚えているに決まっている。それに、飾っているのにも気が付いていたが……指摘するのが、その……おかしくないか?」


 困ったようにこちらを見るディルミック。よほど今の状況が恥ずかしいのか、頬が分かりやすく赤くなっている。

 照れを隠すためか、少し笑っているその表情を見て、わたしは何とも言えない感情が、ぐっとこみあげてくるのを感じた。

 愛おしい、というのが、一番近いような気がする。


 ――いつか、母たちのような女になってしまうのかも、と思っていたこともあるけれど、子供ができてもなお、そんな気配はない。

 ディルミックも、子供たちも、手放すことなんてきっとわたしにはできない。


 言語化して説明することが難しい感情を言葉にする代わりに、「おかしく、ないです……」と言うのが、わたしには精一杯だった。


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よろしければ確認してみてください。

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