転生守銭奴女と卑屈貴族男の風邪事情 02
治癒師といっても、何でも魔法で解決できるわけではないらしい。風邪を治すことは不可能ではないものの、風邪程度ならば自然治癒に任せておいた方が体に負担がかからない、ということで、ディルミックは一日寝て休む、ということになった。
大丈夫かなあ……。
心配ではあるけれど、わたしが何かできるか、というと何もすることがない。
わたしが看病しなくたって、本職の医者と世話係であるメイドがいるのだ。料理だってプロがいる。何もすることがない。
それでも、ディルミックの体調が気になって、自室にいても、つい、寝室に繋がる扉の方を見てしまう。勉強に、と絵本を読んでいるけれど、頭に入ってこない。なんなら、開いたっきりほとんどページは進んでいない。
こっちに嫁いできてから結構経つけれど、ディルミックがこんなにも本格的に体調を崩しているところは初めて見るのだ。寝不足な様子でふらついているところは、たまに見かけるけど。
ディルミックだって人間なのだから、風邪の一つや二つ、そりゃあひくだろうけど……。
――カタン。
「…………?」
物音がしたような気がして、わたしは読んでいた絵本からぱっと顔を上げる。幻聴、ではないと思うけど……。
大丈夫かな。
不安になったわたしは、絵本を閉じ、可能な限り音を立てないようにそっと寝室に繋がる扉へ近付いてそれを開ける。物音がしないようにゆっくり動かすので、なかなか部屋の中が見えないが仕方がない。
「――……?」
なんとなく、人の気配がしない。半分ほど開けた扉から、なんとか体をねじ込んで、部屋の中をよく見たら、ベッドの上にディルミックはいなかった。
「えっ」
わたしは慌てて、勢いよく扉を開ける。聞こえてきた物音は、重たいものではなかったけれど、もしかしてベッドから落ちたとか……!?
もし落ちてたら大変だ、とディルミックが普段寝ている側のベッドサイドに行ってみるが、そこには床が広がっているだけ。なにもない。
人の気配がしないのも当然だ。誰もいないのだから。
なんで誰もいないの、と不思議に思ったのも一瞬。すぐにわたしの視線はディルミックの寝室へ繋がる扉へと向いた。
「――まさか」
そんなはずはない、と思いながらも、わたしはディルミックの私室に繋がる扉を開けた。ノック忘れたけど、今回ばかりは許してくれ。
わたしが扉を開けると、案の定、机に座って書類仕事をしているディルミックがいた。着替える気力がなかったのか、寝間着を着たままの。
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