転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 17
「……早く、わたくしを振って」
誰かが来るかもしれない場所で、好きだと伝える勇気が出なかったわたくしは、情けなくも、そんなことを言った。見た目ばかりが異物なわたくしは、どうしようもなく、グラベインの女だった。
「我がままで、自分のことばかりで、子供っぽくて――おく、奥様みたいに、正しくなれないわたくしを、き、嫌いだって、ふって!」
一度は泣き止んだはずなのに、再び涙腺が刺激されて、喉と唇が震える。
手ひどく振られる覚悟だけは、できていた。
母のように、奥様のように、顔なんて気にしないと、言える勇気が、わたくしにはない。そんな女が、選ばれるわけがないのだ。
そう、思っていたのに――。
「――正しい、って、具体的になんだ?」
ハンベルは、わたくしの言葉の詳細を求めた。予想外の反応に、わたくしは、咄嗟に次の言葉が出なかった。
「少なくとも、グラベインでは、醜いものを醜いって言うのが『正解』だろ」
「――……」
否定、できない。
でも、その正解に苦しめられてきたわたくしだから、それが本当に正しいことなのかと、奥様と接して疑問を持ってしまったから。
肯定も、できなかった。
「――……オレはさ。好きな女に、無理に『醜くない』って言ってほしくないんだよな」
「――は?」
ついにわたくしは、間抜けな声を上げてしまった。さっきから、ハンベルの言葉の理解が追い付かない。思わず彼の方を見る。
「だってさ、そんなこと言ったら、この国じゃ差別されちまう。傷つきながらそんなこと言われても、全然嬉しくない」
「それ……は……」
その言葉に、わたくしは反論できない。
わたくしだって、同じようなことを考えたことがあるからだ。幼い頃、わたくしの髪や肌をからかわれて、ハンベルに庇われたとき、似たようなことを思った。
わたくしをかばったら、余計にハンベルがのけ者にされてしまう、そこまでして守ってほしくない、って。
「まあ、面と向かってブスって言われたら、流石にちょっとは傷つくけど」
「…………」
これも言い返せない。
ハンベルを怒らせようと思って、わざとブスって言ってしまったから。多分、わざとそんなことを言ったの、この男は分かってるんだろうけど。半笑いだし。
「で、振ってほしいんだっけ?」
ハンベルの言葉に、びくり、とわたくしの肩が跳ねてしまう。
何を恐れているの、わたくしは。
自分から離れることができないから、ハンベルから振ってもらおうって決めたばかりじゃないか。
「――……オレさ、この年まで結婚できなかったわけよ。まあ、まだ完全に望みがないわけじゃないけど――お前の言う通り、ブスだし?」
――続く言葉に、わたくしは、思わず目を瞬かせた。
「お前が嫁になってくれなかったら、オレ、一生独身なんだけど」
だって、彼が、あの約束を、覚えているなんて、夢にも思っていなかったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます