転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 11
わたくしは部屋に逃げ込むと、自分のベッドの上へと倒れ込むようにして寝そべった。
使用人の寝室は男女別。女子用のこの部屋には二段ベッドが一つと、ベッドの代用ができるソファが一つ。二段ベッドの上の段がノルテで、下の段がわたくし。
わたくしもノルテも、必要最低限の私物しかこの部屋に置いていないが、わたくしの枕元には、くたびれたうさぎのぬいぐるみが置いてある。
昔は白くてふわふわだったのに、日焼けてしまったのか毛はパサパサだし、くすんだ白になっている。時折抱いて眠るからか、変な癖がついてしまったようで、うさぎは今日も頭をうつむかせていた。貰ったばかりのときは、しっかりと前を向いていたのに。
わたくしが、あの日、ショーウインドウで見つけ、頻繁に眺めるようになったあの白いうさぎのぬいぐるみ。この子をハンベルからもらって、もう十年以上経つ。
……十年も、ぬいぐるみを持っていて、あの店で取り扱うような、少女っぽいものが好きだから、いまだにハンベルから子供扱いされてしまうのだろうか。
実を言えば、この子を手放そうと思ったことは、一度や二度ではない。いい歳だから、汚れてしまったから、と、何かと理由を探しては、捨てようと、ゴミ袋を片手にこの子を葬ってしまおうと、何度も思ってきた。
でも、結局、この子はここにいる。
この子を捨ててしまえば、あの約束を――馬鹿みたいなことを口走った、あの頃のわたくしだけが本気で叶うと信じていた約束も捨ててしまうことになると思うと、どうにも駄目だった。
わたくしは覚えていても、肝心のハンベルが覚えていない、叶うことのない約束。
それでも、ハンベルの代わりに、この子が覚えていてくれていると思うと、どうにも手放せないのだ。
わたくしがこの子を手放すとしたら、それはハンベルかわたくしのどちらかが、他の誰かと結婚するときだろう。
――大きくなったら、結婚しよう、と言った、子供の約束を過去のものにして。
……正確には、ハンベルが大きくなっても結婚できなかったら、わたくしがお嫁さんになる、なんて、ちょっとアレな言葉ではあったけれど。
わたくしもハンベルも、周りから多少浮く見た目をしているけれど、旦那様ほどではないし、結婚が絶望的かというと、全くそんなことはない。ハンベルと彼の両親が比較的仲がいい辺り、それは分かり切っていること。
本当に目を引くくらい醜い人間だったら、たとえ親子でも、もっと冷めきっている。むしろ、血のつながりがある親子だからこそ、他人同士よりも、露骨に嫌がられるものだ。
だから、いつかは誰かと結婚できる。
「……やっぱり、子供の言うことだからって、本気にしてなかったのかな」
うさぎに話しかけてみても、あの約束を聞いているはずのこの子は答えてくれない。ぬいぐるみだから、当たり前だけど。
年を取れば取るほど、あの約束は本当にかわされた約束じゃなくて、子供だからとあしらわれていただけなんじゃないかと思ってしまう。
でも、それなりの年齢になっても、ハンベルに婚約者どころか恋人すらできていない様子を見ると、チャンスがあるのでは、と期待してしまうのも事実。
そんな馬鹿みたいなことを、もう何年もだらだらと続けている。
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