転生守銭奴女と卑屈貴族男の冬ジャム事情 02
まあでも、そういう文化があるなら、わざわざスウィンベリーを使うのはちょっと当てつけっぽいな。
別に、スウィンべリーを用意したのは縁起が良さそう、という理由だけなので、スウィンベリーにこだわる理由はない。送るジャム一つ一つに、花言葉のように特別な意味があるわけでないし。
「じゃあ、何か代わりに使うのに良さげな果物はある?」
今日は冬ジャムを作るぞ、と何日か前から意気込んでいて、朝食が終わってすぐにキッチンへ来たので、幸いにもまだ時間はある。午後のお茶の時間に出すのには間に合わないかもしれないが、街に買いに行ったとしても、今日中に作って渡せるだろう。
「そうねえ……あ、これなんてどうかしら」
ベルトーニが持ってきてくれたのは、かごに入った、ぶどう……のような果物だ。大粒の果実が房のように集まっているが、前世のスーパーでよく見かけた、少し細長い逆三角形のような形ではなく、球状に実が連なっている。
マルルセーヌでは見たことのない果物だ。わたしの反応が悪いのを見て、わたしが知らないことをベルトーニは察してくれたらしい。
「グラロップっていう果物よ。グラベインでも北の方が有名な産地なの。おひとつ試しにどうぞ」
そう言って一粒、房から取って、皮をむいて渡してくれた。「中の種には気を付けてね」というベルトーニの忠告に従って、わたしはガリッと種ごと噛まないように気を付けて食べる。
味はぶどうだったが、果肉が少し固い。美味しいが、確かに種がやや大きかった。果肉と種の比率的には梅干しを思い出す。
「ジャムを作るなら種を取り出すのが少し手間なのだけれど、グラロップは多分、旦那様の好物だから」
「ディルミックの……」
種を取り出すの大変そうだな、と思っていたわたしの考えは簡単にどこかへ行ってしまった。
ベルトーニ曰く、ディルミックは出されたものはなんでも食べるし、文句は言わない。それに料理へ注文を付けることもないが、毎年冬になると必ずしれっとグラロップを発注して厨房に入れるのだという。グラロップがいつの間にか食糧庫の目立つところに置かれていると、「ああ、冬が来たわね」と実感するのだとか。そして冬の間はずっとグラロップが食糧庫にあり、発注されなくなると「ああ、冬が終わったのね」という気分になるらしい。
「グラロップって結構食べるのが面倒なのよね。でも、旦那様が残すことは絶対にないし、きっと好物なのよ」
確かに、平民だったら口に放り込んで、後から種をぺっと出せばいいだろうが、貴族はそうもいかないだろう。ナイフとフォークで種を取り出して、なんてちまちました作業、絶対できない。
でも、ディルミックが好きだというのなら、スウィンベリーよりグラロップの方が断然いい。
「これで作るわ! このグラロップは貰ってもいい?」
「ええ、食糧庫にまだまだあるもの。そこのかごのは全部使ってもいいし、なんならアタシが追加を食糧庫から取って来るわよ」
追加はまあ、とりあえず今ある分を全部処理してから考えるということで。
喜んでくれるといいなあ、と思いながらわたしは冬ジャム制作に取り掛かるのだった。
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