転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 21
ガタゴトと馬車に揺れられる日々がまたやってきた。このままグラベインに帰るのかと思えば、勝手に帰るわけにもいかないので、領主と国王にもう一度挨拶してからようやく帰れるのだという。よくよく考えてみればそれもそうか。
ここに来るまでの道のりを再び戻ることになるのだが、前回のように観光や舞踏会の予定はないので、行きよりは早くことが進むだろう。
旅行も楽しいし、またどこか行きたいな、と思うのだが、やっぱり終盤にもなってくると家が恋しい――と思ったところで、思わず笑みがこぼれる。
「どうかしたか?」
声に出さず、ふっと笑っただけなのだが、わたしが笑ったことにディルミックが気が付いたらしい。
「いえ、新婚旅行楽しかったな、って思う反面、家が恋しい、と思ったら、ああ、あの屋敷がわたしの帰る場所になったんだな、と」
一年というのは、長いようで短い期間だ。この年齢でも、あっという間に感じられてしまう。
そんな期間でも、あそこは既に、わたしの帰る場所。この一年、いろいろあった。
でも、それでもあそこがわたしの帰る場所ならば、辛いことはなくて、毎日楽しかったということだ。まあ、大変だと思うことは多々あったけれど。コルセットとか、勉強とか、コルセットとか、結婚式の準備や前日、とか。
「村に戻っても、懐かしいな、って思っても、『帰った』って感じがあんまりなかったんです」
わたしは馬車の中から窓の外を見る。森の中の道を移動しているので、周りは木々ばかりだが、生えている木が違うのか、グラベインとはまた違う雰囲気がただよっている。
それを懐かしい、としか思えない自分がいて。
「まだ一年なんですけどね」
もっと、懐かしさ以外にも、思うものがあるものだと思っていた。ディルミックがいる以上、結局はグラベインに帰るし、いつまでもマルルセーヌにいるわけがないのだが、『もう少しいたいな』くらい、思うと思っていたのだが。
「まだ、あと何十年もグラベインで過ごすのに、たった一年で染まってしまったようで」
まあ文化とかは慣れないことがまだまだあるけれど。でも、それこそあと何十年とディルミックの傍にいるのだから、ゆっくりと慣れていけばいい。……作法とか、早急に覚えないといけないことは別として。
ふと、さっきからディルミックの反応が何もないな、と彼の方を見れば、びっくりするほど顔を真っ赤にさせていた。
「え、どうしました? 体調悪い?」
「な、何でもない……。大丈夫だ」
心配して顔を覗き込むが、目線が合わない。もしかして……照れてる?
必死にわたしと目線を合わせないようにしながら、唇を噛みしめるディルミック。でも、微妙に口角が上がっているのを隠せていない。
そんな姿が愛おしくて。
「この先何十年でも、一緒にいますから。まあ、喧嘩することもあるでしょうけど、でも、いつでもわたしの帰る場所はディルミックの隣です。――これからも、末永くよろしくお願いしますね」
思わず、そう笑ってしまうのだった。
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