転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 20
「え、本当にこれ持って行っていいの?」
白地にピンクの花柄模様。じいちゃんが持つにはいささか可愛さが過ぎる夫婦茶器一式。
それは、小さい頃、わたしがじいちゃんに欲しいとねだった茶器だった。
でも、これはじいちゃんがばあちゃんにプロポーズするときに使う為に作った一品で。茶を愛するマルルセーヌでも、プロポーズするときには指輪を使うのだが、たまに夫婦茶器を一式用意する人もいるのだ。
そういう人は大抵、茶器を扱う職人や商人、もしくは、絶対に相手と結婚するぞ、という強い意思を持つ人がやる。
そして、じいちゃんが前者で、ばあちゃんが後者だった。
つまり、じいちゃんもばあちゃんも、プロポーズのために夫婦茶器を用意していたから、一つ夫婦茶器が余ってしまったのだ。
基本的に夫婦茶器は一つしか使わないので、じいちゃんたちは普段、ばあちゃんが用意した夫婦茶器を使い、じいちゃんが用意した方は物置にしまい込まれていたのだ。
それをわたしが見つけ、茶器の可愛さに「欲しい!」とじいちゃんにお願いしたのだ。
勿論、当時は断られたのだが。夫婦茶器だと知らず、普通の茶器だと思っていた幼いわたしは、欲しい、頂戴、と、「これはじいちゃんたちのだから」と言われたにも関わらず何度も頼み込んだのだ。
最終的に、じいちゃんが折れて、「じゃあ、お前を幸せにしてくれるだろう、じいちゃんが認める男を連れてきたときにくれてやる」と言われたのだ。
大きくなってから、夫婦茶器の存在を知り、じいちゃんにねだった茶器が夫婦茶器だったことに気が付くと、貰うのは無理だろうな、なんて思っていたのだが。
そんな茶器を、今じいちゃんが持ってきた、ということは――。
「金にしか興味のないお前に、もっと大事なものがあると教えてくれた男が悪い奴なわけがない」
「じいちゃん……」
お金につられて結婚する、とじいちゃんに言ったときは、やっぱりな、という顔をされ呆れられたものだが。でも、そんな始まりでも、今わたしが幸せでいることを、じいちゃんは察したのだろう。
「――っ、あのっ」
ふと、ディルミックが、じいちゃんに声をかける。
「僕――いえ、私の立場上、一般的な夫婦でいることは、難しいと思います。ですが、彼女を、ロディナ、さんを幸せにします。必ず」
宣誓をするように、ディルミックは言った。
じいちゃんは少し驚いたようだったが、ふっと緩く笑う。
「信じます。こんな一平民に、丁寧にしてくださるお貴族様の言葉を、疑えるわけがない」
そして、幸せになりなさい、とじいちゃんは、わたしを見て言った。
言われなくても、わたしは今幸せだよ、じいちゃん。
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