転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 19
純銀貨五枚。その言葉に流石のじいちゃんもお客のおっちゃんも、酷く驚いていた。
その金額に唯一ピンと来たのは、ディルミックだけで。
「純銀貨五枚って……まさか君、あの金を持ってきたのか!?」
「はい」
純銀貨五枚――それは、わたしがディルミックと結婚の契約を結んだときに貰ってきたお金である。言い方を悪くすれば、わたしがわたしを売ったときに貰ったお金。
普段は、欲しい物や必要な物をミルリ経由だったり、もしくは直接ディルミックに言うだったりして、ディルミックに買ってもらって現物支給されている。
故に、わたしが自由に使えるお金はこれだけで。
ディルミックが夫婦茶器を買うことを渋っているわけじゃないし、むしろ言い出したのはディルミックの方。お金だって出してくれるだろう。
でも、わたしはどうしても、このお金で夫婦茶器を買いたかった。
別に、ディルミックとの、お金ありきだけだった頃の関係を清算したいとか、そういう訳じゃない。わたしがお金に目がくらむ人間じゃなければディルミックに会えなかったわけだし。
ただ、この純銀貨五枚を使うなら、これ以上ない使い道だと思っただけだ。
「それは君のお金だろう。僕だって金を持ってきているし、そのくらい出せる」
「ううん、これはわたしが払いたいんです。せめて半分は出したい」
「だが……」
わたしたちが言い合っている横で、じいちゃんが、「純銀貨五枚どころか、一枚すらうちじゃ扱っとらんぞ」と言ってきた。それもそうだ。
「あのロディナちゃんが自分で金を……。成長したんだなあ」
『あのロディナちゃん』とは、つまりお客さんがおつりをお駄賃としてくれていた幼女時代のわたしのことである。そこらの子供の何倍も大げさに喜ぶので、ちょっとしたおこづかいをいろんな人から貰っていた頃があったのだ。幼女時代どころか、働いていた頃もおつりの端数なんか貰って大喜びしていたこともあるわけだが。
「いや、今でも木貨一本で大喜び出来る自信ありますよ」
木貨とは、木で出来た棒状の貨幣で、一本は日本円に換算すると大体十円だ。子供の小遣いにしたって少ないお金だが、お金はお金である。
「じゃあ、ほら、おつりあげるよ」
「えっいいんですか!? ありがとうございます!」
わーい、とわたしはお金を受け取る。やったね!
「それでこそロディナちゃんだ!」と何か喜んでいるおっちゃんとのやりとりを見て、じいちゃんが「少し待っとれ」と奥へ引っ込んでいった。
えっ、あるの? さっきはそんな高価な茶器は扱ってない、みたいなこと言ってたのに。
待つこと十数分。古びた箱をじいちゃんは持ってきた。その箱を見て、わたしは思わず「えっ」と声を上げてしまった。
それほどまでに、驚いたのだ。だって、それは――。
「ロディナ、これを持っていきなさい」
そう言ってじいちゃんがわたしに渡してきた箱を開ける。蓋を持つ手が、少し震える。
「カップソーサーは別に作り直すが。サイズが合わんだろう」
その箱の中には、記憶に懐かしい、白地にピンクで花柄の模様がメインにデザインされた、夫婦茶器一式が入っていた。
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