転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 15

 ディルミックの手をとって、その場で軽くワルツのステップを教えて貰っているのだが、わたしの想像以上に足元が見えないわ、スカートの裾が重くて脚にまとわりつくわで、ディルミックとの密着を気にしている場合じゃなかった。

 今回はそこまでヒールの高い靴を履いているわけじゃないので、そこまで足は痛くならないのがまだ救いか。


「右、左……ロディナ、足は僕が避けるから、前を向いて。本当ならもっと移動して踊るから、周りを見て踊る癖を付けないと後が大変だぞ」


 スカートの裾がふわふわと、わたしのステップに合わせて動くので、正直足元がちゃんと見えるわけじゃないんだけど、つい、足を踏んでしまわないかと足元に視線をやってしまう。

 貴族はよくこんな衣装で踊れるものだ……。えっ、さっきディルミック、簡単なステップって言ってなかった? これもしかして初歩の初歩とか、そういう感じ? もっと難しくなる?


「ロディナ、ここで回れるか?」


「回る? ターンですか?」


「そうだ」


 なんとなくのイメージで、少しばかりディルミックから離れて回ると、ふわり、とスカートが舞った。そしてまた引き戻される。


「ワルツは大体こんな感じだな。他のペアにぶつからないよう、移動しながら踊るが……どうだ?」


「想像以上に重労働でびっくりしました」


 こんなにも大変なのに、貴族のご令嬢は皆、あんなに優雅に踊って見せるなんて、流石というべきか。


 興味本位で覚えてみたいな、と言い出したのを少し後悔するくらいには習得するには時間がかかりそうだ。まあ、覚えるけど、覚えたいけど……っ。

 興味があって何かを覚えたいと思うのと、その過程が苦にならないかはまたちょっと別だと思うのだ。そりゃあ、自分から言い出したことだから、無理やり強制的にやらされるよりは辛くないと思うけど。


 うーん、でもこれは覚えないと駄目なやつだな。


 貴族に嫁いだのだから一つくらいダンスを踊れるようになった方がいい、とか、アニメや漫画、童話の絵本でしか見ないようなきらびやかなダンスをディルミックと踊ってみたい、とか、そういう考えも、あるにはあるんだけど。


「……この場所を譲るわけには……」


 ぼそっと、思わずわたしは呟いた。完全に足は止まったものの、未だ腰にあるディルミックの手の感触を感じながら。

 一度ダンス(ダンスと言っていいのか分からないほど簡単なステップだけだったけど)が止まってしまえば、今度は密着している体が気になるわけで。

 端からみて体がある程度密着するのは分かっていたが、実際に踊ってみると想像以上に近い。


「何か言ったか?」


「いえ何も」


 もし、グラベインで舞踏会に出なきゃいけないような事態になったとして。そのとき、わたしがダンスを踊れなかったら。


 ディルミックが他の女性と踊ってしまう……!


 既婚者でもパートナーの許可を取ってからなら踊るらしいし? パートナー以外と踊ることも普通だってトリニカ嬢から聞いたけど?

 でも、わたしが踊れないからこのポジションを譲るというのは、悔しくてたまらないのである。


 遠い未来、「僕と踊りたがる物好きは君だけだと思うんだが」とディルミックに笑われることを知らないわたしは、絶対に覚えるぞ、と、こっそり強く決意したのだった。

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