転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 16
ガタゴトと、馬車に揺られる。昨日までとは違い、今日の道は随分とがたがただった。
それも仕方あるまい、わたしの出身である村は、それはもう田舎なのだから。
そんなわけで、新婚旅行のメインである、わたしの出身地への訪問する日がようやく来た。ディルミックがお貴族様だから、国王や領主にも顔を見せ、挨拶をしなければならなかったが、本来の目的はここである。
まあ、わたしの出身地なんて観光もなにもない、本当に片隅にある田舎だけれど。自慢なのは治安の良さくらいだ。田舎特有の陰湿な感じのない、のどかで平和な村である。
それでも、ディルミックがわたしの育ての親とも言える祖父に挨拶をしたい、というのだからありがたい話である。……わたしはディルミックの両親に挨拶したことないけど、いいのかな。多分、本館にいるんじゃないかと思っているが、そもそも本館に足を踏み入れたのが結婚の契約を結ぶときだけで、後は用事もないので行ったことはない。
ただ、ディルミックからは何も言われていないので、わたしから何か聞く、ということはない。
わたしの勉強やマナー教育などを頼っているのが実母ではなく叔母であるあたり、なんとなくディルミックの親子関係が透けて見える気がして、聞きにくいのだ。
結婚して、一緒に過ごして、想いが通じて、出会ってからようやく一年が経ったと頃だ。これからあと何十年、という長い時間を過ごしていくのだから、彼の口から話してもらえる日を待つしかない。
いやまあ、流石に、現在ご存命なら、葬式とかまでには教えて欲しいものだけど。義両親の葬儀に参列しない嫁ってやばすぎない? 大丈夫?
――まあ、そんな先の話より、今は今日のディルミックである。
今、目の前に座っているディルミックは、いつもとちょっと違う装いだ。
普段の格好だと目立つから、と随分とシンプルな服を着ている。お貴族様らしい装飾がほとんどない。
装飾がごてごてしているいかにも貴族っぽい服を着るディルミックもかっこいいが、今日みたいな機能性重視、みたいな服を着ているディルミックも素敵である。というか、こっちのほうがディルミックの顔の良さが引き立つ。顔がいい人は何を来ても似合う。まあ、その『顔がいい』はわたし基準なわけだが。
わたしも、普段ディルミックの屋敷できているものより簡素なワンピースを着ている。生地がいいものだから、全然安くはないが。
なんだかデートっぽいな、とわたしの心はひそかに浮足立っていた。いや、新婚旅行だから間違ってはいないんだけど。でも、この格好では馴染みがある、というか、普段と違う新鮮さがあるというか。
「――あ、ディルミック、そろそろですよ」
馬車の窓から、一本の木が見える。
わたしの村の入口付近には、一本の目立つ木が生えている。この世界独特のものなのか、それとも前世にもあったのか、そもそもなんの木か分からないので判断はできないのだが、一本だけ、幹が白い木が生えているのである。周りが濃い茶色の幹を持つ木ばかりなので、非常に目立つ。
その木を通過すれば、十分と立たずに村の入口だ。
「何もない村ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです」
「僕からしたら、君のような人間が育った村、というだけで興味深い」
うーん、ハードル上がってない? 大丈夫? 本当に何にもないぞ。民家と少しの店があるだけで、遊ぶようなところは皆無だ。
大丈夫かな、と思ったけれど。
「それに、その……つ、妻の生まれた土地を見てみたい、というのは……おかしなことでもないだろう?」
そう言うディルミックの耳は、少しだけ赤かった。他人にわたしを妻と紹介するのは平気でも、未だにわたしへ面と向かって「妻」と言うのに慣れていないらしい。
……ま、まあ、わたしも言われ慣れていないのだが。
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