転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 13
お見合いの席で、お茶を淹れるあうのはマルルセーヌではよくあること……どころか標準らしいのだが、その席で、心底本気でおいしそうに飲んでくれるトリニカ嬢の笑顔に惚れてしまった――というのが、彼、バルック氏の言い分だった。
「こんな見た目ではありありますが、家柄だけはそれなりによいので、周りの令嬢は笑顔で自分が淹れたお茶を飲んでくれるのです。……一応は」
話しぶりからして、なんとなく、貴族特有の作り笑顔であることを、察してしまっていたのだろう。そんな中、本当の笑顔を見せてくれるご令嬢。
うーん、それは確かに惚れるのも無理はない。
だからこそ、振り向いてほしいと、わたしに声をかけたのだろう。
何も参考に出来るようなアドバイスが出来なくて、本当に申し訳ない。
「ちゃんとお茶を飲んでくれるのなら、お茶会でもして、その想いを伝えてみたらどうです?」
マルルセーヌ人の、秘儀・困ったときにはお茶会、である。まあ、お世辞でも何でもなく、ちゃんと美味しいとお茶を飲んでくれるのなら、トリニカ嬢もバルック氏のことを悪く思ってはいないと思うのだが。仮に恋愛対象として見ていなくても、嫌悪は抱いているまい。
「結婚してからでも、その……恋に発展することはありますから。ゆっくり話をしてみるのもいいんじゃないでしょうか」
貴族同士の結婚なら、そうそう簡単に離婚しないだろうし。グラベインじゃあるまいし。
それに、トリニカ嬢と会話をした感じ、少なくとも他人を見下すような性格をしているようには見えなかった。
「トリニカ嬢が相手ですから。誠実に接していれば、悪い様にはならないかと……おそらくは」
まあ、断言して責任はとれないけど。大丈夫って言ったのに! とか、こっちに言われても困るけど。
バルック氏は少し考え込んだのち、「とりあえず、また、お茶の席をもうけて、話をしてることにします」と言った。
何か彼の中で答えが出たのなら幸いである。質問に答えはしたけれど、彼の望むようなアドバイスが出来た自信がないので。
「あの、最後に一つだけ聞いても?」
「……なんでしょう?」
まだあるんだろうか。
面倒くさい、という気持ちはないけれど、自分に満足行く回答が出来る自信がないので、あんまり聞かれてもな……。
と思ったのだが。
「貴女は、本当に夫のことを愛していますか?」
「もちろん」
即答できる質問だった。むしろ即答ができないのなら、グラベインであんな喧嘩を売るような宣誓ができるものか。
本人に面と向かって言うのは少し……だいぶ……かなり恥ずかしいが、こうやって他人に宣言する分にはそうでもない。まったく照れがないわけでもないが。
とはいえ、未だに少し自信が情けなディルミックを見ると、こういう場で口ごもるのは駄目だな、と思うので。
「……少しだけ、希望がわきました。今日は、急に不躾な質問をして申し訳ありませんでした。自分の周りは皆、政略結婚ばかりだったので、恋愛の相談事をしにくくて」
マルルセーヌの貴族も、最近はある程度恋愛婚が増えてきたが、それはあくまで認められた範囲内で、ということらしい。
まだまだ政略結婚が残る中だと、確かに恋愛ごとは相談しにくいだろうなあ。ましてや貴族界。噂なんてあっという間に広がってしまうだろう。
その点、わたしたちは国が違うので、話しやすい、というのもあるんだろう。しかも、わたしはここの元領民で、招待客は自分が嫁に貰う娘の家で招待した、まったく接点のない相手ではないわけだし。
そのあと、二、三、言葉を交わして、わたしたちは別れる。
あの人、上手く行くといいなあ。
恋愛話をしていたら、なんだかディルミックの顔が見たくなってきてしまった。……まあ、今は仮面をつけているので、見れるわけじゃないんだけど。
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