転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 12

 ディルミックの好きになったところ。そう言われて改めて考えて、返答に困ってしまった。

 好きなところはいくつも挙げられるが、どこを好きになったのか、と聞かれると……。


 決定打は、わたしが前世と今世、二度の人生に渡ってずっと抱えて来たものを、否定してくれたことなのは、確かだ。人を好きになるのが怖いと、尻込みしていたわたしを引っ張り上げて、救ってくれたところ。

 でも、もうその時点でディルミックのことを好きになり始めていたので、それが『好きになったきっかけ』と言われるとなんかちょっと違うと思う。


 外見、といっても信じて貰えないと思うし、お金をくれたから、とか言った瞬間にドン引きなのは間違いないだろう。こんな庶民にも誠実にきっちりお金を払ってくれたことには好感が上がったが、それが恋愛の好感度かというとまた微妙だ。


 というか、あんなイケメンと同じ家で生活して、致すこと致して、性格も普通(卑屈なところを除けばむしろいいほうだと思う)な男を好きにならない女がいるか?


 普段は自信なさげな顔をして、わたしに触れる時ですらおっかなびっくりで、そのくせようやく触ってきたかと思えば、安心したような、縋るような、そんな目をする。

 好感度が上がる要素しかない。そんなん、何杯だってお茶を淹れたるわ。


 いや駄目だ、これはそのまま伝えられない。


「――彼の寝顔を見て、モーニングティーを淹れてあげたいと、思ったんです」


 これで誤魔化されてくれないか? マルルセーヌ人でしょ? と思ったのだが。


「どうしたら、自分もそんな人間になれるのでしょうか」


 返ってきた男の言葉に、それは個人によるのでは、という感想しかない。

 というか、わたしの場合はたまたま上手く噛み合っただけだと思うのだ。


 わたしはお金が大好きで、金さえ貰えばなんでもオッケーな姿勢で、そのくせ使うのが好きというわけじゃないからディルミックの好感度が下がりにくかったのではという予想がある。多分、わたしがお金を散財するような女だったら、また違う未来になったと思う。


 逆に、ディルミックが性格をこじらせて、ただ卑屈なだけじゃなくて、先日の、エノーリオ、という男のようになってしまっていたら、わたしだってここまで彼のために何かをしようとは思わなかった。


 だから、他人がわたしたちの真似をしたところで、上手くいく保障なんてないのだ。


「……どうしてそう、思うのです?」


 質問に質問で返すのはよくないとは思ったが、わたしは尋ねた。まあ、わたし個人の考えで言えば、そう思い、努力しようとしている時点で未来は結構明るいと思うのだが。


「……自分は、彼女に――妻となる、トリニカに、不相応にも恋をしてしまいまして。どうしても、欠片でいいから、彼女に情けをかけて貰いたいのです」


 そのいかにも自信なさげな言い回し。どこかディルミックに似たようなものを感じてしまい、わたしは思わず、まじまじと彼の顔を見てしまった。

 仮面で目元が隠れてはいるものの、確かに、見える範囲から察するにそれなりのイケメンなのだろう――わたし基準の。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る