第2話

 最寄りのバス停で私が目を光らせていると、件の奇々怪々ながら甘美な制服をきた神母墓第二女子学園の生徒と思しき女子が一人、轍を縦に踏みつけたようなチグハグなエンジン音を奏でる小型バスから降りてきた。溌剌とした顔立ちは都会の洗練された雰囲気と結びつき、今ここが峠二つ超えた最も近き人家までは車で一時間ほどはある山奥であることを忘れさせる。


 嗚呼、これが超芸術トマソンの精髄か、と私は思いながらも、生憎制服マニアにして些かトマソンの造詣が深くないことを悔い、無意味にも等しいミーハーな感想を抱いて、草陰に隠れながら生徒のあとをつけた。


 女子学生の繊細にして玲瓏な髪艶が上下左右に揺れると、私の鼻先を狂わせるような薫香が漂った。次いで森林山地独特のジメジメした土と朽ちの香りが来て鼻腔でブレンドされ、嗅覚まででもトマソンの精髄を味わわされた。「こここそが探していた魔の山だ」と私は思った。


 女子はそのまま折れた枝が突き出ている泥濘の獣道を進み、神母墓第二女子学園の校門にあたるであろう滝つぼに出た。水の音は柔らかく瀑布のごとき轟音はない。いや、轟音どころか水の音すらしない。しかし当たり前か、ここは女学園なのだから。


 私は草陰に身を隠し、滝つぼに革靴を沈めていく女子学生の様子を伺った。焦げ茶色のローファーは清澄な水面を吸い込み、沈む船のように踝の隙間から水を入れていく。やがて白いソックスが水の重みでやや黒く染まり、女生徒が歩き始めると飛沫が顔にかかってセーラーやスカートのプリーツが濡れる。それまで無表情であった生徒は水しぶきに目を瞑り、水を嫌うようにして小さな唇を密着させ、恥じらいと苦悶の表情を浮かべて滝のなかの学校へと入っていく。


 清らかな山の湧き水と微かなる汗と唾液、さらには俄かに鼻水を染みこんだ少女のセーラー、そしてプリーツの谷。私はその甘美なる宝物(ほうもつ)を心より欲し、この頓狂な女子学園に忍び込むことを決めた。探し物は少女の脱いだ制服。体育か部活動などが滝のなかでも可能ならば、それは水の匂いに混じったあの薫香を辿ればありつける。

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