未到達女学園

藤 夏燦

第1話

 日本には「魔の山」といわれる山々が北は北海道から南は沖縄までそこかしこに点在している。

「魔の山」では現世の常識を超越しているとされ、時間の緩急が極端になったり空間の構築が曖昧になっていたりする。


 航空写真などで遠方の山深き一帯を調べてみると、主要な道路からは随分と離れているのにも関わらず自動車が何台も止めてある大型プラントらしき建物があったり、誰に見せるかもわからない近代的な芸術品が並んだ美術館のような建物を見つけられる。


 これらは超芸術トマソンの広域版ともいえるものでもあり、あるいはそれらを意図して作られた恣意的な産物である場合が多い。しかし私はそれらとは全くもって違う、まさに魔の山の証拠とも言うべき物件に遭遇した。




☆☆☆




 私立神母墓(かんもぼ)第二女子学園は滝のなかにあった。第二ということは第一もあるのかと思い調べると、神母墓第一女子学園はごく一般的な平地の長閑な田園区画のなかに位置していた。しかしながら神母墓第二女子学園だけが人里離れた山奥の、大河を水源近くまで遡った小川の先にある、滝口までの高さが2メートル弱ほどの岩肌に囲われた小規模な滝のなかに存在していた。


 生徒たちはみなプリーツのところに若草色の縦模様の入った紺色のスカートを召していた。上着はブレザーで襟のところに白い房が生え、その長さは生徒によってまちまちである。この姿に私は珍しい茸の菌床が彼女らの肩に蔓延っているかのような強烈なインパクトを覚えた。こんな個性的な制服は全国でもおそらくここだけだ。


 なぜ私が神母墓第二女子学園を知ることになったかというと、それは私自身が熱烈な制服マニアであったためだった。主に女子学生のみの、均等に振られたプリーツの折り目の、その罪深き谷折りの、秘められた底に魅せられて、以来各地を回っては夜な夜な学校に忍び込んで制服を盗み出し、自宅の隠し部屋に集めている。


 ちなみに私は女性なので、男性的なフェティシズムとは断じて違う高尚なる収集の衝動からことに当っているが、収集対象が他者のそれもまだ成人していない思春期女子の日々生活のために纏まとう制服であることは些か罪悪感がないわけでもない。それでも、罪の意識にかられ隠し部屋でハンガーにかけられた制服たちを見ているうちに、志半ばで制服収集をやめることはこれまで盗まれた制服とその持ち主の少女に申し訳ない気持ちがして全国の女子高生の制服を集めるまでは止めないと半分決意、半分惰性で動いているのである。

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