明るい明日はどうなるか謎

「ただ、お願いがあるの…」

爆音が木漏れ日を揺らし一条の雲と青空をかいまみせた。

「え…」

エルフの若奥様が振り向く。

「私、医者をやめて、派遣会社エージェントもやめたわ。お金は大丈夫よ」、と千賀子。

「おいおい成田フードデリバリーに足りないのは水素燃料だぞ」

五郎のすぐ脇を大気圏往還機が離陸していく。

「黒子さんが大丈夫って言ってるでしょ?」

「私、看護師やってんじゃないのよ…」

黒子は不安そうな顔になった。

「千賀子、俺も病院の先生になるよ」

五郎は異世界シャーマンアカデミーの入学願書を掲げた。

「い、行くの!」

浦賀千賀子は目を見張る。成田は社長業以外の肩書が欲しいと公言している。

「千賀子、ありがとう…俺…看護師やれないから、その上を目指すわ」

「え、どう言うこと?」

五郎の脇をもう一機、赤十字のロゴ入りが飛び立っていく。

成田ヘルスケアデリバリー。軌道上のクリニックに病院食を運ぶ。

「俺も千賀子みたいな産業医になれるかな…」

「私、もう病院へ…」

千賀子は口をつぐむ。

「大丈夫、看護師じゃないし」

千賀子は成田夫婦の入学願書を見やった。希望コースは呪術師シャーマン養成講座。週一のスクーリングを含む通信教育も教育訓練給付対象になった。

「ありがとう」

黒子は心配そうに千賀子に言ったが、千賀子は暗い表情だった。

「生活費を稼ぐためにやってたし…」

千賀子はそっけない。

黒子はため息をついて、

「私も、千賀子みたいな看護師になりたいわ…」

「だ・か・ら!」

千賀子の眉間にしわが寄る。

「え…千賀子は優秀な医療従事者だから背中を見るだけで十分だろ。黒子は教科書通りやれば大丈夫」

「そう…」

千賀子は寂しげな顔をしながら笑った。装っているが心残りが見え隠れする。

「成田のシャーマンになりたいなら、いつでも言ってよ、黒子は俺より優秀だけど、俺より時給おかねがもったいないから…」

仕方なく五郎が助け舟を出した。バリウムは廃れたが作業用人造人間ホムンクルス向けの治癒魔導装置ヘリウムに必要な水素燃料の扱いには専門の呪術師が立ちあう。資格要件は医師または看護師相当だ。

千賀子はそんな話をしながら結局はアカデミーに通った。

入学初日の話だ。

「私は千賀子を励ませてあげるわ、本当に私が助けてあげるから…」

黒子は千賀子に感謝して、「ありがとう」と言った。

黒子は、千賀子のことが好きだ。だから好きなだけ呪術師になりたい。

そして、千賀子を助けられる呪術師になりたい。一緒に頑張れるから目指すことができる。

だから千賀子は、学校で優秀な模範になるべく努力した。

しかも千賀子は黒子のことを、呪術師を目指すきっかけになったというのだ。

黒子は千賀子の努力を見て大したものだと思ったが、千賀子は黒子の根性をすごく尊敬できた。

なんだかんだ言って二人とも卒業生になれて嬉しいというのが素直な気持ち。

「感謝だなんて、私、千賀子のこともすごく尊敬してるわ」

「本当に嬉しいよ。黒子には本当に感謝してる」

「私は千賀子のことが嫌いになった時もあったわ」

「でも千賀子は黒子を嫌いになったんじゃなくて、大好きだよ」

「…ありがとう…」

黒子と千賀子は嬉しく二人で笑う。

黒子と千賀子は二人に、それぞれ自分が理想とするいつでも好きな人が現れる。

二人はそれぞれ自分が望んでいる理想の人を見つけ、二人はどんどんと理想の人になっていった。

そうして、黒子、千賀子は自分自身の理想の人に会うこともできたと言える。

「二人とも本当に良かったね。このまま理想の愛を結ぶことができれば、理想の恋ができただろうからさ」

卒業式当日、成田五郎は新品の大気圏往還機で乗り付けた。

白いボディにはヘリウムで助けられた社用人造人間たちの寄せ書きで一杯だ。

「千賀子!」

五郎が操縦席から降りる。

「千賀子!」

黒子が助手席から駆け出す。

千賀子は声を聞いて、二人に駆け寄った。

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バリウム団地の酸素不足 水原麻以 @maimizuhara

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