メモリーカードの謎

「本田宗一郎がギフト券を贈った動機が餞別だとしたら、生き馬の眼が濁る理由も説明できる」

成田五郎はどうやら誰もが腑に落ちる結論を得たようだ。

「どういうことですか。成田様」

「倫理に反するからだよ。ドロドロの内部抗争に患者を巻き込むなんて…」

「上田、浦賀両先生を応援した程度で本田様の人生が否定されるでしょうか」

「黒エルフの道徳感覚では微罪なのだろうが、日本じゃ言語道断だよ」

五郎の無神経な言葉に黒子は目を潤ませた。

「黒エルフとは……悪人じゃありません」

思わず口に出してしまった。

「だって堕悪妖精ダークエルフっていうじゃないか」

「何を言ってるです!黒エルフは悪に堕としてなるもんですか!」

「悪に降るか否か。それはお前の選択の問題。俺は容認できない」

「黒エルフの道徳感覚では純真な黒エルフでもそうでないも差別するのはおかしいわ!」

「俺も本田さんも正しさを知っている。だから正しさの為に命を懸ける。それに、二人とも日本人だ。互いに正義の心を持っている。命を賭けて正義について語りあっている」

「何を言っているですか……ではなぜ成田様を酸欠にさせたのですか」

黒子は思い詰めたような表情。

「上田先生」

五郎は医療コーディネーターを睨んだ。千賀子はいつの間にか消えていた。

「はい」

パシッとメモリーカードが叩きつけられる。

「ここの入院記録だ。患者の個人情報が漏洩するなんて言語道断だろう。これが千賀子先生のクリニックに投げ込まれた。しかも診療中にだ」

「そんなことが…」

前之介は耳を疑った。

「黒エルフの道徳意識では純真な黒エルフでも純真でない黒エルフでも差別するのはおかしいが、俺ら全員が同じ正義の心を持っている。その証拠に今からいくらでも命を賭けるぜ」

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