バリウムギフトの謎

「どうも怪しい」

「誰が?」

「さっきの千賀子って医者だ、なんか病院ではこんなものを使われていたぞ」

成田が説明する。封筒の中身は使用済みのバリウムギフトだ。贈り主は本田宗一郎。バリウム団地付属病院の退職祝い。贈り主からの一言欄に書いてある。

そしてその病院に通院している患者の名簿がメモリカードが同封されていた。

「それを僕に。いったい誰が?」

成田は身震いした。

「でも、ガセネタかも」

「でも見てみなさい」

成田がQRコードをスマホのカメラで読み取る。

「え~」

びっしりと患者名簿が並んでいた。

「千賀子さんも通院しているって書いてあるから、それを書かれた人々を調べてみよう」

バリウム医は利益相反にならないよう他院で診療を受ける規定がある。

「でも、この情報を信じていいんですか?」

「クレヤボヤンスがある」

五郎はだんだんやる気になってきた。

「でも、犯人が入院しているんですか?」

「そこにはいない」

「え!」

黒子は驚いていた。

「千賀子が仕事を退職しておきながら古巣で治療を受けるって不自然だ。しかも死人が餞別を贈っている。僕が入院すれば何か解るかもしれない」

「そ…そうですか」

「それでいこう」


「え~」

千賀子は、困惑していた。ギャン泣きの過呼吸なんて聞いたことがない。成田は担架で本田宗一郎の死をメソメソ嘆いている。

「そうだね、今はこっちにも頼れる人なんて誰もいないから、このまま酸素吸入を続けてみよう、本田さんの時もそうだったんだし」

看護師が「お客様の中にお医者さんは…」をやって千賀子を召喚した。

「でも、あのお二人が連れて来いって、それって…」

千賀子は嫌な顔をして言った。

しかし、そんな千賀子の表情を分かっている成田は「いいから」と言うが、千賀子の表情は曇ったままだった。

「いいから、行ってあげて」

千賀子は仕方なくその看護師に従って病室に行った。

「ちょっと、早く来て~!」

担当のナースと言うと、

「え…あのお二人?」

千賀子はびっくりしていた。

「来た来た来た来た!お母さんから電話があったよ」

千賀子が固まる。

「え…どうゆうこと?黒子ちゃん」

「本田さんのお母さんは医療機器メーカーの販売会社の御令嬢だったけど、私生活は全然ダメだって言ってたんだよね」

「そ…そうだったんだ、ごめんなさい。でも、お母さんの話をちゃんと聞いてたら、こんなことにはならないと思ったのに…」

病院絡みでつながりがあるのならドラ息子の無茶ぶりをデリカット社に伝えておくべきだった。

「千賀子さん、あんたが謝ることじゃないよ」

五郎が酸素テントであえぐ。

「え~」

千賀子は泣きそうな顔をしている。

「それよりさ、あんた、本田さんに何をされたんだい?」

「な!?」

「別に何かされた訳ではないっしょ」

千賀子は困っていた。

「じゃ、千賀子さんの気持ちだけでも聞きたい」

「…」

「あ…そうだ、あんたの元上司に相談してみるよ」

「お願いします。」

黒子も後押しする。

「千賀子さん、これの件についてわかる人の所に僕を連れて行ってくれ」

「え?え?」

「成田様のためにも、お願いします」

黒子がずらりとバリウムギフトを並べた。

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