第10話

☆☆☆


翌日目が覚めてキッチンへ降りても、コーヒーの香りはしてこなかった。



寂しさを感じながら1人分の朝食を準備して、家を出る。



こんな沈んだ気分の日に限って、空はよく晴れていた。



昨日の蒸し暑さもどこかへ消えて、今日はサッパリとした夏晴れだ。



「敦子、今日は元気ないけどどうしたの?」



教室で、いつも通りに振舞っていたハズだったのに、さっそく由香里に心配されてしまった。



いくら演技をしてみても、いつも一緒にいる友達をごまかすことはできないみたいだ。



仕方なく、あたしは昨日の出来事を由香里と蒔絵の2人に説明することになった。



「そっか、心配だね……」



話しを聞き終えた由香里が眉を下げて言った。



「うん。大丈夫だとは思うんだけどね」



お祖父ちゃんがいなくなってしまうなんて、あたしには考えられないことだった。



「そんなに沈んだ顔してたら、お祖父ちゃんが心配するよ!?」



蒔絵はそう言ってあたしの背中を叩いてくる。



でも、その目には涙が滲んでいた。



「あたしのこと、心配して泣いてくれてるの?」



「な、泣いてなんかないし!」



蒔絵は慌てて手の甲で涙をぬぐい、笑顔を見せた。



蒔絵は人一倍、友達のことを思いやれる子だ。



「明日は判定試験もあるし、大丈夫なの?」



由香里はまだ心配そうな顔をしている。



「あ、そういえばそうだっけ……」



明日は志望校に入学できるかどうかの判定試験がある。



試験結果はA~Eランクに分かれて判定され、D以下だと合格は難しいらしい。



ここ最近ずっと勉強してきていたのだけれど、昨日の出来事で試験のことをすっかり忘れてしまっていた。



「今日もお祖父ちゃんのお見舞いに行って、それから勉強するから大丈夫だよ」



あたしは無理やり笑顔を浮かべて答えた。



試験の時だけ勉強したって意味はないんだし、今回の結果が悪くてもまだまだ頑張る時間は残されている。



「敦子、あたしたちにできることがあったらなんでも言ってよ?」



蒔絵が真剣な表情で言ってきた。



「ありがとう」



こうして学校で友達と会話をしているだけで、随分と気は紛れる。



それに、試験を変わってなんて言えないし、お見舞いにだって自分で行きたい。



結局、すべて自分で頑張るしかないのだ。



「でも、大丈夫だよ」



あたしは大きく息を吸い込み、そう言ったのだった。

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