第9話

荷物を持って病院へ戻ると、祖父の容態はひとまず安定していた。



意識はまだ戻っていないけれど、この様子ならしばらくは大丈夫だろうと伝えられた。



けれどあたしの心は晴れなかった。



家に戻ると一人ぼっちで、どうしても気分は沈みこんでしまう。



「今日はこっちの家に泊まろうか?」



伯母さんがあたしを心配して声をかけてくれたが、あたしは丁寧に断った。



伯母さんだって自分の家がある。



あたしにばかりかまっている暇はないはずだ。



お祖父ちゃんが入院したことで、余計に忙しくなってしまっただろう。



そんな伯母さんに甘えてばかりいることはできなかった。



その夜はあまり眠ることができなかった。



お祖父ちゃんのことは気がかりだったし、静かすぎる夜に少しだけ恐怖心があった。



目を閉じて何度も寝返りを打ち、ようやくうつらうつらしてきたのは夜中の2時だった。



不意に「嫌なことはぜ~んぶ忘れちゃえばいいんだよ!」という声が聞こえてきた気がして、あたしは跳ね起きていた。



心臓がバクバクと早鐘を打っている。



「誰かいるの!?」



部屋の中に聞いてみても、返事はない。



あたしはそっと部屋を出てキシム廊下を進む。



突き当りにあるのは祖父の部屋だ。



あたしはゴクリと唾を飲み込んでドアの前に立った。



大丈夫。



ただの聞き間違いだから。



自分自身にそう言いきかせてドアノブを握る。



昼間には感じなかったが、ドアを開けた瞬間冷たい冷気が溢れ出てきたように感じられ、あたしは強く身震いをした。



ゴクリと唾をのみ込み、勢いよくドアを開く。



恐怖心から一瞬きつく目を閉じ、そろそろと開く。



そこには昼間と変わらない様子の部屋があった。



「なにもない……?」



暗闇へ向けて声をかけるが、返答なんてあるはずがない。



やっぱりあたしの勘違いだ。



ホッと胸をなでおろし、あたしは祖父の部屋のドアを閉めたのだった。

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