第6話

☆☆☆


病院内は薄暗くて、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。



どこからか聞こえてくる子供の泣き声。



職毒液の匂い。



カラカラと点滴を持って歩く音。



そのどれもが恐怖の対象だった。



手術室の前のベンチに座ったあたしはひとりでカタカタと震えていた。



お祖父ちゃんはどうなってしまうのか。



あたしはひとりになってしまうのか。



その恐怖がどうしても離れて行ってくれない。



「敦子ちゃん!」



廊下に響く声が聞こえてきて、息を飲んで顔をあげた。



見ると青ざめた顔の伯母さんが走ってやって来るところだった。



「伯母さん、どうして……?」



伯母さんの姿を認めてから、あたしはお祖父ちゃんが倒れたことを誰にも連絡していないことに気がついた。



混乱していて、救急車を呼ぶことで精いっぱいだったのだ。



「お隣さんが教えてくれたの。家に救急車が来てたみたいだって」



伯母さんは息を切らしてあたしの横に座った。



「きっと大丈夫よ。すぐに良くなるから」



伯母さんはそう言い、あたしの手を握り締めた。



それでもあたしの震えは止まらない。



手術の時間があまりにも長く、沈黙は重たく、呼吸すら止まってしまいそうだった。



そんな地獄のような時間が過ぎていき、ようやく赤いランプが消えた。



あたしは咄嗟に立ちあがり、出てきた医師にすがりついた。



まさか、自分がこんなことをする日が来るなんて思っていなかった。



ドラマや映画の世界だけだと思っていた。



「ひとまず峠は超えました。ですが、このまましばらくは入院してもらうことになります」



あたしは担当医の話を聞きながら、隣に立つ伯母さんの手を強く握りしめていた。



そうしないと、今にも倒れてしまいそうだったから。



お祖父ちゃんが入院……。



こんなこと今まで1度だって経験したことのないことだった。



もしかして、入院したらそのまま家に戻ってこれないんじゃ……?



そんな嫌な考えがよぎったが、頭を左右に振ってかき消した。



「敦子ちゃんしっかりして。お父さんの一旦家に戻って、入院道具を準備しないと。1人でできる?」



そう聞かれて、あたしはどうにか頷いたのだった。

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