第5話

☆☆☆


学校から家までの帰り道で考えることといえば、毎日の晩御飯の献立だった。



「昨日ハンバーグにしたから、今日は魚にしようかな」



ブツブツと独り言を呟きながら歩く。



頭の中には冷蔵庫の中身がちゃんと入っていて、どの食材で何を作るのか想像することもできた。



祖父との2人暮らしのおかげで、あたしの料理の腕は中学生とは思えないほど伸びていた。



いつかこの特技を生かして浩太にお弁当を……なんて、淡い妄想も抱いている。



鼻歌まじりに玄関を開けて部屋の中へ入る。



祖父はすでに定年していて、時折シニア向けの仕事を斡旋してもらって働いている程度だった。



今日は家にいるはずだけれど、玄関を入って声をかけたときに返事がなかった。



「おじいちゃんただいまぁ?」



あたしは首をかしげつつリビングのドアを開けた。



その瞬間だった。



リビングの床に大きなものが横たわっているのがわかった。



顔が向こうを向いていて見えなかったから、一瞬それは人形かぬいぐるみかと思った。



だけど違うとすぐに気がつく。



ハッと息をのんで鞄を投げ出し、駆け寄る。



「お祖父ちゃん!?」



倒れた祖父の体を抱き起こすと、その体には全く力が入っていなかった。



ダラリと垂れ下がる両腕に心臓が早鐘を打ち始める。



「お祖父ちゃん!?」



いくら声をかけても返事はなく、目は固く閉ざされている。



「嘘でしょ……」



一瞬、頭の中は真っ白になった。



ほとんど記憶に残っていないはずの、両親の葬儀の時の光景がよみがえってくる。



沢山の親戚の人たち。



真っ黒な服の集団。



祭壇に飾られた花と両親の写真。



それらが鮮明に思い出され、写真が両親のものから祖父のものに変換され、鳥肌が立った。



お祖父ちゃんもあんな風になってしまうの?



あたしを置いて、行ってしまうの?



考えた瞬間、言い知れぬ恐怖が襲いかかってきた。



このままじゃ、あたしは本当にひとりぼっちになってしまう!



「お祖父ちゃん、しっかりして!!」



あたしは大声で叫びながら、電話へと走ったのだった。

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