第4話

「敦子―! 今日遊んで帰らない? 昨日新しいゲーム買ってもらったの!」



放課後になると同時に蒔絵が声をかけてきた。



「ごめん、今日も早く帰らないとおじいちゃん心配するから」



あたしは早口に言い、鞄を持った。



「そういえば敦子の家っておじいちゃんと暮らしてるんだっけ」



「うん。幼稚園の頃両親が事故で亡くなって、それ以来ずっとなの」



「そっか……」



「そんな暗い顔しないでよ。両親が死んだ記憶なんて、ほとんどないんだから」



あたしはそう言って笑った。



あたしが物心つく前に両親はいなくて、すでに祖父との2人暮らしが始まっていた。



あたしの祖母はもっと早くに亡くなっていたらしくて、写真でしかその姿を見たことがない。



でも、特別寂しいと思って過ごしたことはなかった。



祖父はできるだけ家にいてくれたし、近所のイトコが毎日のように遊びに来てくれたから。



時にはイトコのお母さん、あたしにとっては伯母さんが母親みたいに接してくれた。



小学校時代にはどうしてあたしにはお父さんとお母さんがいないの!?



なんて泣いたこともあるけれど、今はその頃の自分を思い出して恥ずかしいと感じてしまう。



そのくらい、あたしの周りは優しい人で溢れていた。



「じゃ、あたし帰るね。2人ともバイバイ」



あたしは由香里と蒔絵に手を振り、教室を出たのだった。

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