第五話② 知らぬ間に進む話は怖いもの


「……何処に行ったんですか、ミヨさんは?」


 あれから魔法使いのお姉さんの所に行き、頭と価格を下げて何とか許してもらった後。私はターミナル内の住居エリアにて、いなくなったミヨさんを探していました。

 自分達の事務所兼自宅から、本日のクライアントであった彼女の家まで何度か往復してみましたが、彼女の姿はありませんでした。寄り道(という名の買い食い)をしそうなお店が並んでいる、商業エリアも見回ってみましたが、一向に見つかる気がしません。


「……防犯ブザーも、鳴ってきませんね」


 ミヨさんに持たせている防犯ブザー。あれが鳴れば一発で居場所が解るのですが、受信する筈の私のタブレットは静かなままです。面倒だったので、防犯ブザーの位置をこちらから探し出すプログラムも走らせましたが、何故か反応がありませんでした。


「……一度、中央役所へ行きましょうか」


 再びため息をついた私は、役所エリアへと足を運びました。万が一、行方不明となってしまったのであれば、中央役所に届け出ておかなければいけません。それに、ブザーがうんともすんとも言わないという事は、最悪の場合、ミヨさんはブザーの存在を知っている誰かに拐われた可能性があります。つまりは、ターミナルの関係者に。

 少しの不安を抱いたまま、私は役所エリアにやってきました。そのまま建物内に入り、窓口へと向かいます。


「……あら、何も言ってくれなかったランバージャックさんじゃないですかねー」


 窓口には、いつものねーねーさんがいらっしゃいました。ただし、何故か私の名前の枕詞に聞き慣れない単語がついています。はて、何も言ってくれなかったとは。


「お願いしたいことがあるのですが……何ですか、その言い方は?」

「何ですか、はないじゃないですかねー。ミヨちゃんの事に決まっているじゃないですかねー」


 ミヨさんについて、とは。


「もう、ランバージャックさんったらとぼけないでくださいよねー。ミヨちゃんが元の世界に帰ることになったんなら、一言くらい言ってくれても良いじゃないですかねー。急に諸々の申請だけが来てびっくりしましたねー」

「待ってください」


 ねーねーさんのおっしゃる言葉に、私がびっくりしてしまいます。ミヨさんが、元の世界に帰ることに、なった……?


「何ですかその話は、私は何も聞いていませんよ? 今日だって、急にミヨさんがいなくなったから、捜索願いを出しに来たんです」

「……えっ?」


 すると今度は、ねーねーさんの方がびっくりした顔をされました。


「……お仕事で忙しいからリッチさんに親権を移し、彼が諸々の手続きやミヨちゃんを送り届ける、という話になったんじゃないんですかねー?」

「……リッチさんが?」


 そこで名前が出ていたのが、あのリッチさんでした。何故、彼の名前がここで? 確かに彼なら、防犯ブザーを知っていておかしくはありませんが。


「……いつ頃来られましたか?」

「……ミヨちゃんは見かけませんでしたけどねー、リッチさんが来たのは、えーっとですねー」


 ねーねーさんから聞いた時間は、ミヨさんが事務所を出てから少し経ったくらいの事でした。と言う事は。彼女はウチを出てから少し経ったタイミングで、リッチさんはこの中央役所に来た事になります。

 しかし、今回のミヨさんの失踪に彼が関係していることは、まず間違いないでしょう。


「……申請書類は既に受け取っておりますが、まだ決済には回していませんねー……ランバージャックさん。もし手違いであるなら、撤回はお早めにお願いしますねー」

「……解りました。連絡してみますので……」


 私はねーねーさんにそう告げると、窓口から少し離れ、タブレットにて登録している番号に通話を繋げました。相手はもちろん、リッチさんです。


『……よお、ランバージャック。お疲れさん。思ったより早かったな』

「早かったな、じゃありません」


 通話に出たリッチさんは、いつもの調子のままでした。


「ミヨさんについてです。一体どういうつもりですか? 彼女が自分の世界に帰るなんて……」

『あー、それな。ワリーワリー、クライアントが早くしろってうるせーもんで、お前に話すの後回しにしてたんだよ……とりあえず、一回会おうぜ? 通話で済ませる話じゃねーんだろ? お詫びとして、場所とドアの代金くれーはこっちで用意すっからさー』

「……解りました。場所はどちらに?」


 言われるまま、私は彼と会う約束をしました。確かに、タブレットでの通話だけで済ませたくはありません。彼女からも、直接話を聞かなければなりませんし。

 そうして私がターミナルへ戻った辺りで、リッチさんからチャットが届きました。そこには向かう先の世界と場所、そしてドアの予約番号があります。


 急がなくてもいーぜ? 懐が潤ったから、しばらくバカンスのつもりだしなー、とメッセージもありましたが、私はすぐに出ました。

 何があったのかを、ちゃんと聞くために。

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