第一話④ 三十路の迷い、ついたため息


「……以上ですねー。お疲れ様でしたねー。あとこちらが解雇申請書になりますねー……ミヨちゃん、解雇しちゃうんですかねー?」

「……これから決めますので」


 中央役所での始末書の提出も終わり、私はねーねーさんから差し出された書類を受け取りました。

 あの後、駐屯地に放火して逃げた私たちは、そのままこちらの世界に帰ってきました。結局、あの世界での仕事ができなかったので、また後日行かなければなりません。


 ちなみに、あの小競り合いのような戦闘は携帯呪文モバイルスペルでの放火の所為か、私達を捕らえた側が負けたみたいです。まあ、どうでもいいですけどね。彼女にお礼告げると、私は中央役所を後にしました。

 外に出ると、既に夕焼けが広がっています。


 ま、これは作り物なんですけどね。このターミナルのある場所は、時間と空間のずれた世界の狭間にあると以前聞きましたので、本来ここには太陽も月もありません。ただ、生物の活動時間を明確にするために年月日を設定し、朝日から月が沈むまでの映像を空に映し出している、と以前聞いたことがあります。大変なんですね、ターミナルの維持管理というものも。頑張って下さい。


「……どうしましょうかねえ」


 そんな他事に思いを馳せた後、歩きながら考えることは、もちろんミヨさんのことです。彼女のことだから、このまま働きたいとか言い出しそうですよね。


「……最悪、身を守る必要がないというのは、確かに魅力的ですが」


 彼女は不老不死。そういった研究は色んな世界で行われていますが、実物を見るのは私も初めてでした。医療費も馬鹿にならないので、そこは評価点です。

 しかし、荷物も持てない彼女が働けるようになるまでの教育。そして彼女の生活用品の用意や給料等の、単純なお金の負担増大。少し考えただけでも、面倒になることは目に見えています。


「……あの情報も、ようやく買えそうな所まで来たというのに」


 第一、私の目的もあります。個人事業主として気ままにやってきた私としては、彼女をこのまま雇う気にはあまりなれないのですが……。


『それでも、わたしを助けてくれた人なんだから!』


 小さな身体で私を庇ってくれた、ミヨさんの姿を覚えています。足を震わせながらも私の前に立ってくれた彼女の背中が、何故か私の頭の中に引っかかっていました。

 そう言えば。私の今週のラッキーナンバーは、彼女の被験体ナンバーと同じ、34でしたっけ……。


「…………」


 帰り道一人。少し足を止めて目を閉じた後、私はため息をつきました。


「……なんですかねぇ」


 別に良いような、そうでないような。気分が沈んでいる訳でもなく、かといって晴れ晴れとした気分には遠すぎる。はっきりしないもやもやが、頭の中をぐるぐるぐるぐる。


「……私らしくありませんね」


 私はもう一度ため息をついて、目を開けました。

 なるようになる、と何処かで聞いた気がします。再び歩き出した私は、ミヨさんが待つ事務所兼自宅を目指しました。

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