サブカルギルド 番外編 クリスマスの不運

 どこに行ってもシャンシャンといった子気味いい音と音楽が鳴り続けている。緑色の木にたくさんの色のLEDを掛けて、輝かせる。都会の夜はただでさえ明るいのに、その明るさに加えて木や足元を光らせたら、もはや昼とも区別がつかない。

 さすがに冗談だが、明るすぎるのも問題だと感じる。実際、光里と出かけている最中に目を負傷してしまったのだ。別に深刻な問題じゃない。医者には「一日くらい片目使えないと思うけど、むしろそれだけで済んでよかったよ。ひどい場合じゃ両目失明するくらいだったし。」といわれてしまったので、良かったと思うしかあるまい。何なら今日のクリスマスプレゼントはこれなんじゃないだろうか。

「ごめんね、私がクリスマスのイルミネーション見に行ってみたいって言ったばっかりに・・・。」

「いや、俺の方こそごめん。せっかくならその前にゲームセンター行こうって言わなければ準備中に横を通ることもなかったから・・・。」

 つまりそういうことである。そしてもう一つ問題がある。

「私が広くんの片目になるよ!」といってずっと左腕に抱き着いているのだ。一男子大学生としては落ち着けない。落ち着けるわけがない。人前で前かがみになるのは問題なので何とか自室まで戻れたが、自室内でそう居られるという保証は無いので、放してもらう。悔しそうにしないでくれ、俺とて頑張ったのだ。

「じゃぁ代わりに、今日は身の回りのお世話を少しお願いしようかな。」

「もちろん!何でもやるよ!」

 男子に向かって「何でもはダメ。」って言ったら、「ひろくんにしか言わない。」といわれてしまったので何も言えない。

「メリィクリッスマース。」

「よぉ、メリクリ~。」

 クートとシロがやってきた。トナカイに見えたのは想像力豊かすぎたか。

「お?どうしたんだツッチー?いつにもまして元気がないじゃないか。今年は一緒に過ごせるおなごがいるというのに。」

「年寄りムーブすな。こっちはデート中に目を潰されたんだよ。」

「そりゃ災難だな。俺たちは暗くなってから行くけどな。」

「誘拐されないようにな。」

 男二人で話し合っている裏で、シロと光里もお話をしていた。

「ツッチーも災難だったね。」

「まぁ、ちょっとはしゃぎすぎたから仕方ないだろ。」

「初めてのクリスマスデートではしゃいでたんだぁ。可愛い~!」

 馬鹿にされててちょっと照れるが、事実なので何も言えない。ついでに光里も照れてる。

「「まぁ、知ってたけどね。」」

「どうせそういうことだろうと思ったよ。見舞いに来てくれたんだろ?」

「そりゃもちろん、親友がけがをしたというのだもの、見舞いにくらい来るさ。」

「本心は?」

「理由を聞いて揶揄いに来ました。」

「素直でよろしい。」

「まぁ、見舞いってのもほんとだ、ほれ、これやるよ。あとで食べな。」

 出てきたのはプリンである。まぁ、うれしいけど。

「ていうか、どこで目のことを・・・。」

「光里ちゃんに教えてもらった。」

「暇にさせてすまなかったな。」

「勝手に言っちゃってごめんね?」

 若干いたずらっぽく言うものだから可愛くて何も言えなくなる。

「なんていうか、お前らもたいがいだよな。」

「クートがいう事か?」

「俺が言うレベルだってことだよ。」

「そう、なのかなぁ・・・?」

「ところでお前らって、どこまで至ったんだ?」

「どこまでって・・・手を握って散歩?」

「はぁ?幼稚園児かお前は。」

「付き合って半年経つってのにキスもしてないってマジで?」

「他だったら、ヘタレ具合に幻滅されてほかの男のところ行ってるんじゃない?」

 シロもクートも辛辣である。

「ほかの男なんて見ないし・・・。」

 場が軽く凍った。もう告白みたいなものじゃん・・・。

「なぁツッチー、おまえ彼女にあんだけ言わせてそれでいいのか?男としてどうなんだ?」

「そうだそうだー。意気地なしー!へたれー!根性なしー!」

 言いたい放題である。

「よーし、シロ、そろそろ準備しに行くか。」

「ほんとだ、割といい時間になったね。それじゃ二人ともまたねー。」

 自然とデートの支度をしに行った。消えるのも急すぎるんだが、それ以上に、現状を作った本人が速攻でいなくならないでくれ・・・。

「あの、広くん。」

「俺は今日、サンタクロースがいくつかのストーリーを頭の中に運んでくれると思ってるから小説を書こうと思う。」

「安静にしてなきゃダメ!小説は諦めて、私をめでてください。というか慰めてください。さっきの一件ですこし不安になっちゃいました。」

 まぁ、正直、ちょっと悪いこと言ったなとは思った。

「わかったけど、慰めるってどうやって・・・。」

「こうします。」

 問答無用で飛びついてきた光里を受け止めるが、どういうことだ。

「今日はずっとくっついています。離れることはほとんど許さないです。」

 なんだか、断ろうという気分になれなかった。

「わ、分かりました。」

 そのままベッドに腰掛けたのだが、右から心地よい質量と熱を感じる。

「えへへ、こんな風にできるとは思いませんでした。」

「それは、俺もだけど。」

「嫌でしたか?」

「・・・めっちゃうれしい。」

「それならよかったです。私もとても幸せですから。」

 しばらくの間、沈黙が続く。時間は分からないけれど、心地よい沈黙が続いた。

「このまま寝てもいいですか?」

「このまま寝たら襲っちゃうかもしれんぞ?」

「ひろくんには無理なので、寝ちゃいますね。」

 光里が体をずらして、俺の太ももに頭を預ける。

「えへへ、こういうのもしてみたかったんです。」

 あまりにも幸せそうに言うものだから、ダメだとは言えない。

「寝てる間にはなれたら怒る?」

「怒ります。とても怒ります。」

「じゃぁ、その、触ったら?」

 自分でも、テンションがおかしな方に向いているのは理解できる。

「え、っと、その、変じゃなきゃ、いいです。」

 分かりやすく赤くしながら言うのだが、俺自身も赤くなっていることがよくわかる。

 恥ずかしくてしばらくの間黙っていたのだが、太ももの上から心地よい寝息が聞こえてきた。

 光里が何ともなかったかのように眠っている。無防備なその顔を見ると、少しだけいたずらしてみたいと思ってしまう。なので、指の背で頬を撫でてみると、くすぐったそうに顔をゆがめてから、俺の手を取って両手でつかまれてしまった。

 俺から離れることができないうえに、さっきよりも顔が近い。このまま少し角度を変えればキスを待っているかのような近さ。

 光里の甘いにおいと、伝わってくる若干の体温。どれも心地が良くて、目の前の寝顔と寝息に心が静まって行って・・・。

 いつのまにか寝てしまっていた。




 突如、頭に衝撃が走る。

「いっ・・・!」「ったぁ・・・。」

 そのまま後ろの布団に倒れて、小さく足をバタつかせようとすると、膝の上にあった何かがおなかに転がってくる。暖かくて、重すぎないような、心地いい何か。

「はっ、ご、ごめんね!」

 光里が必死に謝ってくる。なぜか赤い顔と、痛みで涙目になっているのが、かなりかわいいけれど、ちょっとそれどころじゃないかもしれない。

「と、とりあえず大丈夫。光里は?」

「わ、私もとりあえずは・・・。」

 外出用の服であることと、エアコンをつけていたこと、光里のおかげで体温が少しだけ暖かくなっていたことが理由なのか、このまま寝てしまってもいいのでは?と思っていた。

「あ、広くん!起きて!お夕飯食べるよ!」

 確かにおなかは減っていたけれど、別に今すぐって必要も・・・。

「ケーキも食べるんだから早めに食べておこうよ!」

 いつの間にケーキなんて買ったっけ?

「シロちゃんが気を配ってくれて買ってきてくれてたんだよ。お見舞い来た時だね。」

 言動に対してめっちゃ気配り上手いんだもんなぁ・・・そりゃクート意外にもモテるし、クートが嫉妬するのもわかるわ。

「女の子と二人っきりの時にほかの女子のこと考えるのは失礼なので今後はしないように。」

 エスパーなの?

「なんとなく読めるのです。約一年過ごしてるからです。」

 めっちゃ自慢げに話してくるので可愛い。とはいえ、俺も時々そんな感じで察せるタイミングもあるので、理解はできる。

「お夕飯は昨日二人で準備してたから温めるだけだね。」

 昨日。二人で出かけることを決めていたので、夕飯だけ先に作っておいて、明日の夜に食べよう。という事にしておいたのだ。寝なければ作る時間もあったのだが。

 夕飯の入った鍋を火にかけて温める。それとは別にお米は炊けていて、ほかにもいろいろ作り置きしていたので、それぞれ温めてからテーブルに乗せる。

 お夕飯はもちろん(?)ポトフである。クリスマス特別仕様という事で、ちぎったチキンが入っている。・・・改めてなんでこれ入れようと思ったの?

「「いただきます。」」

 二人で食べ始めたのだが、チキンの焼き具合とコンソメの味がいい具合にしみていて、思っていた以上に美味しく仕上がっていた。

「・・・おいしいけど、なんでこれ入れようと思ったんだろうね。」

「ほんとね、おいしいけど。」

 とまぁ、いつも通りの平和で幸せな夕食に、ちょいたしで笑いが入ってきた。


 サンタクロースが何かをくれることはなかったけれど、彼女がそばにいるこの日が、毎日のように過ごせるなら、特別なプレゼントなんてなくたって・・・。


 いや、ごめんなさい。ほんとはショッピングモールで互いにプレゼント交換する予定でした。いつかお高いネックレスでもプレゼントできたらいいな・・・。



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