サブカルギルド 5 外出


 目が覚めると、床で何も掛けずに寝てたはずなのだが、布団が掛けられていた。

「あっ、おはよっ、広くん。」

「うん、おはよ。」

「朝ごはんは買ったパンと紅茶が・・・ちょうどいい感じに冷めてそうだね。朝ごはん食べ終わったら身支度してよ。これからいろいろ買いに行かなきゃだからね!」

 妙に楽しそうだな。と思いつつ現在時刻を確認する→1時半。まぁ、寝る時間確認し忘れたどころか、寝る前の記憶ほぼ無いもんな。

 言われた通りに朝食を食べて(パンに合った紅茶でめっちゃおいしかった)、身支度を済ませてからパソコンを開く。

「もう、行くって言ったでしょ。」

「ごめんごめん、昨日寝る前に変なこと書いてないかなって・・・。」

『ねがおかわいいねむい、ねる。』

 ワードに欲望丸出しとか俺は馬鹿なのか???? とりあえずそのあたりは全て消した。

「なんか書いてあった?」

「ちょっ、急に出てこないでよ、びっくりしたじゃん。」

「見られたらまずいことでも書いてたのぉ?」

 ニヤニヤしながら顔を近づける光里に、ちょっとドキドキしてしまった。


 素早く身支度を済ませる。

「お待たせ。」

「うん、もう5時間くらい待った。」

「そりゃ悪かったよ。」

「機嫌取ってくれたら許してあげる。」

「そりゃ財布と要相談だな。」

「そういう時は『まかせとけ』ってかっこつけて言ってよ、揶揄うから。」

「よし絶対やんない。」

「まぁいいや、それじゃ行こうか。」

 そう、行先もわからないまま連れていかれた。


 行先は順々に知らされた。

寮から駅までつなぐ無料のシャトルバス→四駅先の都会の駅→デパート専用のバス→デパート。

 というわけで、デパートにつれていかれた。

「うっへへぇ、こういう所、一回は来てみたかったんだよねぇ~。」

 デパートに来ただけなのにめっちゃはしゃいでる・・・可愛い。

「広くん。今私のこと田舎者だって思ったね?」

「えっ、いやそんなことないけど?」

「どぉだか。」

「そういえば、光里ってここに来る前はどこに住んでたの?」

 思ってみれば、読書好きの友人。くらいしか情報を持ってなかった。

「うげ、それをこの流れで聞くのか・・・。小学校の同級生は10人だったよ。」

 あぁ~、そういう感じかぁ・・・。

「そうなんだ、俺のところは一軒家ばっかりで、デパートとかに行くことも少なかったな。」

「そ、うなんだ。まぁ、そんな田舎自慢は置いといて、せっかくだから遊ぶよ!」

「遊ぶの!?」

「遊ぶよ!帰りに食材は買っていくけどね。」

 隣の建物に二人で歩いて行った。

 

 建物自体が一つのゲームセンターで、階ごとにクレーンゲームやメダルゲームなどに分かれていた。

 そして俺が問答無用で連れていかれた場所が・・・プリクラである。

「ちょっと待ってくれ。男女でプリクラは難易度高くないか?」

「難易度?よくわかんないけど、可愛い写真作れるらしいし、かっこいい写真もできるでしょ。」

 あぁ、この子地元に無いから知らないんだ・・・。俺らを知ってる人が近づかないことを祈ろう・・・。

「でもこれ、どれがいいんだろう?種類たくさんだけど・・・。」

「そういわれても俺は分からんからなぁ・・・。」

 机と椅子とハサミがある場所で立ち往生してると、店員さんが声をかけてくれた。

「プリクラの種類にお困りですか?初めてでしたら、あちらがおすすめですよぉ。」

「ありがとうございます!あれ使わせてもらいますね!」

 そう勧められたのは、白と黒が基調の台だった。

 そして聞き逃さなかったし、見逃さなかった。その店員が少し離れたところでこちらに振り向こうとしていることと、さっき勧めた後にこっそり「カップルがぁ・・・。」と、背筋が凍りそうな声を放っていたことを・・・。

「どうしたの?広くん。」

「いいや、何でもないよ。さすがに緊張しててね。」

「そうだね、私も初めてだから少し緊張するかも。」

 まぁ、後、気まずいんだよね。普段来ないし、他人JKがきゃぴきゃぴしているの、こういうところでよく見るから。

 問答無用、というよりもわくわくした面持ちで手を引く光里なのだが・・・。緊張が加速するんだこれ。

「どうしたらいいのかなこれ?」

 と、撮影場所のようなところに来てから戸惑う。俺にもわからない。と肩を上げてジェスチャーで示す。

『外側 右後方のパネルを操作してください。』

 唐突の機会音声の後、握られている手の骨が悲鳴を上げた気がした・・・。

「さ、先にこっちなんだね。」

 そう言いながら、もはや俺のことは見えていないのだろう。半ば引きずるように連れていかれる。

 機会に直接パネルがあり、その前には椅子があったので、座る。必要があったから自然と手を離したのだが、小指に少しだけ、光里の手が触れる。

 隣にいる光里を見ると、顔が赤くなっていた。 えぇ、何それ超かわいいんだけどぉ・・・。

 とまぁ、いともたやすく貫かれた心臓はいいとして。このタッチパネルでは人数や撮影回数と、その回数ごとのフレームなどを決めるようだった。様々な種類があったものの、二人で適当なものを選ぶことにした。

 さて、いくつかの設定を終えて、さっきと同じ撮影室のような場所に来たのだが・・・。

「なぁ、マツさんや?今日はやけに距離感が近くないかい?」

「そうかな?気のせいじゃないかな、広旅くん。」

「・・・考えても見れば、あだ名で呼ばれる俺なんかは特にそう見えるもんだよな・・・。うん、今更だったよ。」

「ならよかった。」

「まぁ、必死に手をつなごうとしてくれるのはとてもうれしいので、ぜひ続けてくれることを祈っているよ。」

 光里にとっての一番の不幸は、この時の真っ赤な顔を撮られてしまったことだろう・・・。

 そのあとしばらく、二人して頑張って撮っていたのだが、加工し終えた後からはさすがに不機嫌だった。(一枚目は死んでも無くさないと心に決めた。)

「本当にごめんってば、あれは本当に偶然で・・・。」

「偶然だとしても恥ずかしかったし・・・ずるいし・・・。」

 「ずるい」が何に対してなのかはわからなかったが、各階でいろいろ努力して、何とか平常心に戻ってもらった。

「ねぇ、最後にもう一回だけプリ撮ろうよ。いやなら証明写真でもいいけど。」

「うん?まぁ、俺はいいけど・・・。」

 という事でプリクラを再び撮ることになった。先にタッチパネルで設定をして、撮影室に入る。

「ねぇ広くん。実は私、まだ少しだけ怒ってるの。」

「なぜここでその話を・・・。」

「仕返しするため。」

 この言葉に反応して、光里の方を向くことを予想されていたのか、はたまた偶然か、光里の腕が肩の上を通り抜けていく。顔が近づく、光里は目をつむっている。

 いいのかこれ⁉嫌ほんとにいいのかこれぇ⁉ダメだったらやばいよ?プリじゃなくて証明写真だよこれ?でもどうなんだ?逃げれるのか?

 ほんの少しの長考を察したのか、通り抜けた腕が首の後ろで組まれた。

 あっ、逃げれないこれ。

 一度目のフラッシュとシャッター音。

 光里が目を瞑る。キスをするタイミングなんだ。と把握すると同時に、逃げる手段を一つ見つけて、実行してしまった。

 体を光里に、限りないほど近づける。それと同時に、光里の背中に腕を回す。光里の頭を自分の肩に、自分の頭を光里の肩に乗せて、互いに抱擁を交わしているかのようにする。

「・・・ずるい。」

 少し前に聞いた、ふてくされたような声でうなる。

「ご、ごめんよ。」

「まぁ、今日はこれで許してあげる。」

 若干上機嫌になっている気がする声で、そう言ってくれた。


 最初の一回目しか聞こえなかったシャッターは、いつの間にか複数枚撮り終えていて、加工パネルで見た写真は、どれも二人で赤面している写真だった。

 互いに何も言わずに写真をしまった。

「あれ?ツッチーじゃん!ひーちゃんもいる!」

 ゲームセンター内でこんなにも声が届く人は、そうそういないだろうな・・・。

 駆け寄ると、シロとクートが並んでいた。

「久しぶりだな、ツッチー。大学は楽しいか?」

「めちゃくちゃ楽しい。」

「食い気味だな。それはよかった。ところでデート中だったか?俺のシロが邪魔したか?」

「揶揄うか自慢するかどっちかにしろよ。」

「じゃぁ自慢する。可愛い可愛いシロとゲーセンデート中なんだ。いいだろ。」

「勝手にしてくれ。」

「デートじゃないにしても、いいタイミングで来れたと、自負しているけどね。」

「自慢しながら揶揄うんじゃねぇよ!」

「やっぱ突っ込み役はツッチーだよなぁ。俺、シロと変なことしてばっかりだもん。」

「楽しきゃいいんじゃない?」

「そうだな。楽しいからいいか。」

 おおかた、闇鍋やら夜中の山にでも行ったのだろう。俺も昔は巻き添えをくらっていた。

「ツッチーにもこれあげるね~。」

 そう言ってシロが渡してきたのは、筆箱につけるような小さな人形(?)で、焼きサバだった。

「・・・なんで焼きサバ?」

「俺にも分からん。」

「可愛いじゃんこれぇ!」

「確かにちょっとかわいいかも・・・。」

 反応は男女に分かれてしまった。

「なぁツッチー。いつかさ、焼きそばを買ってきて。って頼んだら、焼きサバを買ってくるとか、そんな古のオチが発生したりしないよな?」

「さすがにないだろ、焼きそばと焼きサバを近くで売ってることなんてそうそうないだろうしな。」

 クートが、妙に真剣に聞くものだから、真剣に答えてしまった。

「広くん、そろそろ。」

「うん、分かった。俺ら今から買い物してから帰るんだけど。二人は?」

「デートだ。」

「そういや言ってたな。それじゃまたね~。」

 

 駅前のスーパーにやってきた。平日の昼過ぎという事もありそこそこ空いていた。

「こんな時間に来れるのも、大学生の特権って感じするよねぇ~。」

「そうだな、会社勤めじゃ、こんな時間に買い出しなんかできないよなぁ。作家なら別だが。」

「ふへへ、そうだね。」

 あの二人と会ってから、光里の機嫌が戻った・・・というよりも、少し上がっているような気がするのだが。機嫌がいいことに越したことはない。

 そう思いながらスーパーに入ろうとしたタイミングで、二人の腹の虫が再び鳴いた。

「・・・まぁ、そういえば、お昼食べてないもんな。先に昼食にするか。」

「・・・うん。」

 恥ずかしがっている光里は、やはりかわいかった。


 せっかくのデパートなので、フードコートに行ってみることにした。

 フードコートには10を超える数のお店が出店していて、よく見る店から見たことない店まであった。

 どれ食べるか二人で歩きながら悩んでいると、光里が天ぷらに目を止めた。

「広くん、この天ぷら美味しそう。」

 なんだか、何も考えてなさそうな声でそういうものだから、無意識においしそうに見えてしまった。

「ここにするか。」

「うん。」

 決めたのは全国にある有名なうどん屋で、二人ともざるにし、三つくらいの天ぷらをそれぞれ取っていった。

「広くんは、ちくわとナスとタケノコの天ぷらにしたんだ。」

「うん、タケノコの天ぷらって珍しいのかな?そういう光里は、かしわ天とかき揚げとサツマイモかぁ。それも美味しそうだねぇ。」

「あっ、じゃぁ二人で半分こづつにしよう。あっ、でも私ナス苦手・・・。」

「いいんじゃない?俺もかき揚げ苦手だから、それ以外を分けようよ。」

「うん。」

 会話は途切れることなく、平和に帰路をたどろうとしていた。

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