サブカルギルド 4 開始


 始業式翌日。

 光里と小説の木のクエストボードを眺めていた。

「広くん!これやろうよ!」

 嬉しそうに紙を持ってくる光里。かわいい。じゃなくて、

「面白そうなものでも見つけたか?」

「これ!二人で一緒に!」

 紙を押し渡されたので眺めてみる。

  急募、ダブル主人公による別視点ストーリー。片方読んだらもう片方を読みたくなるようなものを募集します。信用度ランク:なし(どなたでも参加できます。) 一作完結を二作。

 面白そうだ。とそう思った。しかし、これだけ面白そうなら先に取られてる可能性もあるだろう。

「まぁ、プリントアウトしちゃったし、やるだけやってみるか。」

「え?プリントアウトしたらやらなきゃいけないとか、そんな感じのあるの?」

「ほらあれ。」

 指をさした先には紙が貼ってあった。「節紙のため、プリントアウトするのは受けると決めたクエストのみにしてください。」

「わたし、節紙なんて初めて見たよ。」

「俺もだ。」

 そんなやり取りをしながら、プリントに必要事項を記入してから受付に提出する。

「クエストの受注ですね。そちらに・・・、学生さんですから学生証名をお願いします。」

 社会人になると別なのか・・・。

「ありがとうございます。では、土浦広旅さんと松山光里さんですね。お二人は初のクエスト受注となりますが・・・。その、こちらのクエスト、推定Bランク以上なのですが、お二人は当学生なので、ただいまEランクに部類されます。その、本当にこのクエストで問題ありませんか?」

 まぁ、当然の反応だろう。

「はい!もちろんです!」

 すごく自信満々な光里の返事に、受付の人も若干引いてるよ。

「そ、それでは、こちらの紙を、今回はお二人なので二枚どうぞ。」

 いろいろ書いてあるプリントを渡される。

「こちらの紙は・・・簡単に言ってしまえば契約書みたいなものです。クエスト内容も書いてあるので、この紙でご確認ください。それでは、初クエスト、頑張ってくださいね。」

 こんな言葉をリアルに聞けるとは思ってなかった・・・。

 

「でも、本当に良かったのか?ランクB相当だとか言っていたけど・・・。」

「大丈夫大丈夫、これでも、結構名の上がった作者だったんだから。」

 それなのに金欠だったんだな。とは言わないでおこう。

「それに、ダブル主人公なら二人で書いた方が簡単そうじゃない?」

「それには賛成。一回やろうとしたけど断念したから。」

「やろうとしたの!?それならそれやろうよ!!ネタがあるなら作品なんてすぐできるしさぁ!!」

 黒歴史とか、そんなものが役に立つこともあるんだなと。そう感じた。


 俺の部屋に戻ってからは作戦会議に入った。

 主人公は二人、付随してメインヒロインも二人、四人は幼馴染兼友達で、片方の二人はすでに付き合っている。この二人は近くにやってくる魔を退治する術者としてのストーリーを。もう二人は一般人の恋愛模様だ。

 関わらせ方は簡単だ。魔の設定を未熟な恋を餌にしている。とする。二人を狙う魔を、もう二人が退治し、片方はシリアスに、片方はコメディにすることで、片方の努力と、それが報われる様を書いたもう片方。その二つを読むことで、ストーリーの真意がわかる。

 そんな風に書くことにした。が、やはり難易度はランク相当というべきか、設定のせいで動きにくいような場面は多々起きた。

「広くん、これめっちゃむずいね!」

「そうだなぁ、まぁ、面白いからいいけど。」

 互いに「疲れた」とか「どうすりゃいいんだこれぇ」とか弱音はたくさん吐いていた。だけど、その声音は強気だった。言葉より心が、「楽しい」と、そう感じていたのだ。

 初日の問題点は、食事を忘れていたことだったけれども。


 ふと、外を見る。閉まってるカーテンの隙間から見える外の景色は、闇だった。

「あぁ、もう夜か。」

「ん。ほんとだね。」

 腹の虫が二匹、同時に鳴った。

「あはは、そういえば、昼以降何も食べてないね。」

 言われてみればそうだった。昼も夜もずっと書いてたからな。時計を見ると、午前1時を過ぎていた。

「じゃぁ何か食べ・・・。」

 冷蔵庫の中身とそれ以外のインスタントを思い浮かべる。そう、何もないのである。最近、買い出しさぼってたから・・・。

「光里、コンビニ行くか。」

「うん、行こっか。」

 今の一言で察してくれるのは、本当にありがたい。


 寮は、寮監がいるものの24時間出入り可能なので、買い出しに行くことも問題はない。

「お兄ちゃんたち、今からどこへ?」

 こんな時間に外出する人は警戒すべきだもんな。と納得しながら。

「少し食べ物を買いに。いろいろしてたらこんな時間で。最近買い出しさぼってたの忘れてたんですよ。」

 そう笑いながら言えば通るだろう。

「そうかい、道中気を付けてな。」

 優しそうな人で良かった。

「はい、ありがとうございます。」

 そう言って、寮を少し出ると。

「ねぇ広くん、さっきの言い方、語弊が生まれると思うから、その、普通に『小説書いてた』でいいと思うんだ。」

「うん?まぁ、それもそうかな。・・・あっ。」

 気付いてしまった。色々してた。ってのが『イロイロシてた。』って意味にもなるのか。

「あぁ、うん、その、すまん。」

「いや、まぁ、別にいいけど。」

 コンビニに着くまで、互いに会話ができなかった。


 さすがにコンビニで食材を買う事は叶わなかったので、インスタントラーメンとなった。

「てか、広くんって少食だよね、一般男性なら二個くらい食べるものなんじゃないの?」

「あんまり食べても苦しいだけだからな。それに、動かないし。」

 そう言いながら自分の腕を見る。細くて白い。少し力を加えれば折れてしまいそうな弱っちい腕だ。

「あぁでも人それぞれだし、広くんはそのままでもかっこいいし。」

「えっ。」

「あっ。」

 外野が居れば、「なにいちゃついてんだよ。」って突っ込みもらえたかな・・・。


 腹ごしらえも終わったので、パソコンの前に座る。少しの眠気を感じながらも、続きをかける喜びが抑えきれない。

「広くん、まだ書くの?」

「うん、今までは時間に限りがあったから、できる限り早くやりたいんだ。」

「・・・大丈夫だよ。」

 その声と、光里が後ろから抱き着いてきた。

「ちょっ、あっ、えっ、なにっ?」

 さすがにパニックになる。こんなこと初めt・・・。小学校以来だ(シロが距離感近かったせい)。

「だいじょうぶだよぉ、今は時間たっぷりあるから、眠い時には一緒にねましょぉ・・・。」

 脳内パニックで体は硬直、溶けるような甘い声と吐息。体がだんだん布団に向かって傾いて・・・。

「っ、危ない!」

「ほあ?」

 できる限り最小限の動きで後ろを向き、彼女の体を腕で支える。さて、互いに抱き着いてるようにしか見えない現状を、俺はどうすればいいのだろうか・・・。

 二人して似たようなことを考えていたのか、互いにしばらく硬直してから自然と放した。

「あの、えっと、ありがとうね。支えてくれて・・・。」

「いや、気にしなくていいよ、ソレニカンシテハ・・・。」

 「なんで片言?」って顔をしているが無視。

「眠そうだから寝ちゃいな、布団使っていいから。」

「えっ、布団使っていいの?」

「うん?むしろダメなんて言わないけど。」

「じゃ、じゃぁ遠慮なく・・・。」

 ぽふんっ、と擬音が聞こえる気がした。するとすぐに心地よさそうな寝息が聞こえてきた。

 ちゃんと寝てるようでよかった。男子の部屋の男子のベットで寝るとか警戒心なさすぎじゃないかな?それほど疲れてたのかな?まぁなんにせよ・・・。

 寝顔可愛すぎるだろぉ・・・!!!

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