サブカルギルド 3 大学
「明日は始業式だから会えないよね。」
少し寂しそうにする光里に共感はあった。
「まぁ、あんまり変わらないと思うよ。それにさ、光里も友達増やせるように頑張ってね。ずっと俺のところに居たじゃん。他の子は共有スペースで友人増やしてたかもだからね。」
「それを言うなら広くんもでしょ。公園に行く以外に部屋を出ようとしなかったじゃん。」
「それじゃぁ、また明日。」
「うん、また明日ね。」
そういって別れてから、俺は部屋に戻るまでの廊下で今日の紅茶の味を思い出す。もう習慣みたいなものだな。
スマホから音楽が流れている。アラームか。うるさいな。眠い。始業式があるんだったな。起きなきゃな。
ベットから体を起こして、スマホを手に取り、アラームを止める。眠気で重い体を起こして、歩いて、水道から水を注いで飲む。そのまま顔を洗って、朝食を探しているときには意識が覚醒していた。
朝食を食べ、支度を終え、そろそろ出るか。と立った時、チャイムが鳴った。
こんな日のこんな時間に誰だろう。
「おはよう。」
「おはよう光里、今日は始業式だけど・・・。」
「一緒に行こ。」
「・・・え?」
「一緒に行こ。」
表情を変えずに二度も言った。謎の圧力を感じるのは気のせいかな?
「は、はい。」
一緒に話しながら歩いていると、誘ってくれた理由がわかった。
「実を言うとね、友達はそこそこいるの。だけど、その、課題を理由に断ってたんだよね。」
「なのに課題を忘れてたのか・・・。」
「だ、だって君といると忘れちゃうんだもん・・・。まぁそれはいいとして、昨日の帰り道に遭遇しちゃって、君と一緒に居るところ見られてたんだよね。」
「ほうほう。」
お決まりの展開なら、付き合ってるか聞かれてどうのこうのだけど。
「それで、君のこと話したら興味持っちゃって。」
「まぁ、男女が仲良くしてたらそうみられるよなぁ。」
「えっと、そうじゃなくて・・・。その、君に。」
「俺に?」
「うん、だからその、渡したくないから、私の大事な友達だし・・・。」
なにこの子かわいい。
「そういう事なのね。とりあえず理由は分かったよ。」
各人指定された席に座って、始業式が始まった。
壇上で学長がいろいろと言っている。
「現在、この大学には名前がない。これからアンケートを実施するので、一週間以内に良い案があれば答えてほしい。君たちがこの大学の一期生なのだから、君たちに大学を作ってほしいのだ。」
大学の名前を決めるのが、そこの学生とは、そんなこともあるのかぁ・・・。
「そして、この大学において、課題というものはほぼほぼ仕事と等しい。授業や講義など一般的なものから専門的なものまで幅広くとっている、単位もそこからとることはできる。だが!この大学はそんな一般的な大学と等しくては意味がない!なので我々は、『サブカルギルドのクエストを攻略した実績』をもって、単位を取得できるものとする。施行される授業などは学則と同じ一冊として配布する。もちろん、電子版もあるのでそちらからも確認をお願いする。」
なんてこった・・・。それはつまり、クエストを攻略すると、その報酬がもらえて、さらに単位が付く。そういう事になる。俺、すごい良い大学に入ったなぁ・・・。
そんなこんなで学長は壇から降り、始業式は終わった。各部屋に例の一冊があるらしいので、後はそれで考えることになる。
とぼとぼと一人で帰路を進んでいると、シロが大量の女子を連れて現れてきた。まるでモンスタートラップとのエンカウントみたいだ。(失礼)
「ねぇつっちー、なんかめっちゃモテてるみたいじゃん。どうしたの?昔は女子に石ころみたいな反応されてたのに。」
笑顔が怖い。なんか知らないけど怒ってる。
「俺がモテる?そんなわけないだろう。きっと勘違いしてるんじゃないか?」
わざとおどけてみる。初対面であれば「もしかしたら違うかも。」と思ってくれるはずだ。俺もシロも女子たちを見てみるとまっすぐ俺を見ている。だめだこれ。
「なるほど、言っておくがシロ、俺は何もしてない。かかわってたのは光里だけだ。」
「・・・へぇ、名前で呼ぶ仲になったんだ。」
あ、やっちゃった。全力で走って逃げるか?
「はぁはぁ、なるほどねぇ、大体わかったかもなぁ。」
「わ、分かったって、何がだよ。」
「ほら、つっちーって女子に勘違いされること多いじゃん。だから何か勘違いしてるんじゃないかなぁって。」
「あぁ、そうかもしれないな!よくあることだったもんなぁ!君たちはどうして俺のことを知ってるんだい?」
「「「「光里ちゃんに聞いたからだよ。」」」」
光里、朝のお前の忠告を聞いておくべきだったよ俺は・・・。
「なるほど、よし分かった、ここで俺がとるべき選択。それはぁ!」
「そ、それは?」
「逃げる!」
言う数コンマ前から走り出していた。また勘違い女子に囲まれるのはごめんだ。
角を曲がるとクートが居た。
「クート!頼む助けt・・・」
「すまんな、つっちー、彼女の頼みなんだ・・・。」
「ぐあぁぁぁぁぁ!はなせぇぇぇ!」
あっさり捕まってしまった。
今、俺は、自分の部屋でクートとシロに尋問をされています。
何を言っているのかわからない?そりゃそうだ、俺が一番わからないからな。
「さーて、いい加減吐いてもらおうか、あの女子たちに何をしていたのかをぉ!」
「本当に何もしてないよ!何なら俺は初対面だったし!それに俺があんなにたくさんの女子と喋れるわけないだろう!!」
「なぁシロ、もういいんじゃねぇの?俺だって時々あるぞ?数は違ったけど。」
「そりゃぁ、クートはかっこいいもん。そこは仕方ないさ。でも、つっちーはここ数日まともに部屋から出てないのにあんなにモテてるとか不思議で仕方ないんだよねぇ!」
「怖いよ!俺に向ける目だけめっちゃ怖いよ!」
「あのぉ、全部私が悪いんで、許してあげてくれませんか?」
「いいや、ぜんぶつっちーが悪い!あんなにたくさんの女子を虜にするとかありえないし・・・。って光里ちゃん!?」
いつの間にか光里が部屋に入ってきていた。シロ、鍵かけてなかったのか・・・。
「わ、私が広くんと一緒に居るところ見られちゃって、それでその、色々聞かれちゃって・・・。」
嫌そう、というよりは照れてる感じがした。
「そ、そんなに魅力的に話しちゃったの?」
「えっと、その、思ったこと言ってたくらいで・・・。」
シロとクートが呆れてるような顔をしていた。
「つっちー、お前、もしかして数日で女の子堕としたのか?」
「人聞きが悪いなぁ!ただ仲良くなっただけだよぉ!!」
そんな人を下心しかないみたいに言わないでほしい。
「うん、お前のバカみたいな純粋さはまだ健在だとわかったよ。シロ、本当みたいだからそろそろ戻ろうぜ。明日以降の予定も合わせないとな~。」「それもそうだね~。」
甘い声出しながら帰っていきやがった・・・。
「えっと、その、ごめんなさい。」
そんな感じでに謝るのは、何をしたのかを理解していないからだろう。怒ってないけど。
「いいよ、気にしてないから。光里もあんまり気にしなくていい。俺の回りじゃ時々あることだから。」
「時々・・・。」
そんな、「ほんとに?」みたいな表情向けないでほしいなぁ~。
「まぁうん、ほんとに気にしなくていいから。それと、朝はありがとね。あぁなることがわかっててああしたんだよね。」
「えっと、うん、私がしちゃったことだから・・・。だから・・・その・・・。」
「うん?」
「私、ほかの誰かに君を渡したりしないから!」
「・・・うん??」
しばらくの静寂、沈黙。
分かっている、分かっているとも、ただ言葉選びを間違えただけだ。でもまあ、分かっていても顔は熱くなるわけで・・・。
互いに赤面するこの状態を、説明できる言葉は見つからなかった。
「とっ、とりあえず、紅茶淹れるね、きょうはどれにしよっかなー・・・。」
まぁ、わざとらしくなるのは仕方ない。・・・そうだ。
「ねぇ、課題って言うか、単位について。どう思った?」
「・・・言っちゃ悪いかもだけど、すっごく雑だなって思った。だって、クエストをクリアできれば遊んでいても問題がないから・・・。」
「うん、それは俺も思った。だけど、同時にすごく楽しそうだなって思った。だってほら、読みたい本ずっと読んでいられるし、それに書くのは書きたくなったらでも問題ない!これ以上最高なことないよ!仕事にしたら期限が生まれて、責任が生まれて、売れなかったらお金も得られない。でも今は違う!楽しく!心地よく!自由に!小説が書ける!それが楽しみで仕方ない。」
光里が何も言わない。引かれてしまっただろうか。
「うん、そうだね!なんか、それを聞いたら楽しみで仕方なくなってきたよ!」
まったく、一人だったらこんな不安も、安心も喜びも感じなかったのにな。
その後は、明日の予定を決めてから分かれた。
明日、二人で掲示板を見に行く。通称、クエストボードだ。
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