サブカルギルド 2 わすれもの(課題)
「高校時代より授業開始時間が遅いと言っても、こんな時間まで寝てちゃぁ遅刻するな。」
昨日の夜は読書を再開して借りていた本をあと少しで読み終わるところまで読んでいた。しかしながら、気が付いた時には寝落ちしていた。
体を起こして玄関に向かう。
「土浦さーん。いますかー。」
「はいはい、ちょっと待っててー。」
玄関を開けると朝からまぶしい笑顔のマツさんが居た。
「おはようございます、土浦さん。今日は何しますか?」
特に要はないけど、言っちゃったから来たのかぁ・・・。
「あぁ、今日は課題でもやろうと思ってたんだけど、まぁ、余裕は十分にあるから大丈夫かな。」
「あっ、課題・・・。」
もしかして・・・。
「課題、手を付けてなかったりする?」
「はい・・・。まったく、というか忘れてました。」
大学寮に入って、1か月弱の準備期間があり、そのあとに本格的に始まる。らしいのだが。
「・・・ずっと読んでたの?あれ。」
「はい。その、楽しくてつい・・・。」
そういう事ならやることは決まった。
「よし、じゃぁ一緒に課題を進めるとしよう。」
「でも、それじゃ土浦さん迷惑じゃ・・・。」
「大丈夫、今まで誰かと課題とかやったことないし。まぁ、マツさんが嫌だっていうんだったら別だけど・・・。」
「そんなことないです!うれしいです!」
「そっか、じゃぁやろ。往復になって悪いけど・・・。」
「はい、すぐ持ってきます!」
そういって持っていたものを置いたまま部屋に戻って行った。
身支度をと課題の準備をしていたら、再びチャイムが鳴った。足早に玄関を開ける。
「お待たせしました!一緒に課題しましょう!」
さっきより二倍も三倍も大きな喜びを抱えてきたような笑顔を前に、倒れそうになるが何とかやり過ごす。
「いらっしゃい。」
「お邪魔しまーす。」
「いつもは椅子に座って書いてる?」
「うん、でも、今日は床でもいいかな。」
「あぁ、大丈夫だよ、予備があるから。あと、そこの机のパソコンは布団の上にでも置いておいて。」
「でも、このパソコンで書いてるんですよね?」
「あぁ、椅子の高さでやりたい時と、布団に座ってやりたい時があるから、二つ用意してるんだよ。」
「そうなんですか・・・。じゃぁ、そっちの机を使ってもいいですか?」
「へっ。ま、まぁいいけど・・・。」
とりあえず、持ってきた小さめのパイプ机を布団の上に置く。
「それじゃ、私はこっちを使わせてもらうね。」
と、有無を今さぬタイミングで言ってきた。
「何か飲み物置いておくか?麦茶しかないけどいいか?」
「あっ、それなら私が。今日は茶葉を持ってきたの。アールグレイよ。」
「おぉ。せっかくだから頂こうかな。」
「台所借りるよ、あと、ティーポットはある?」
「もちろん。左下にあるよ。」
さて、紅茶を準備してくれている間に課題についてでも・・・。
「えぇ!?こんなに!これもある!すごぉい!」
「ど、どうした?」
「土浦くんこんなに茶葉もってたの!?」
「あ、あぁ、高校時代にバイトのお金で買ったやつだ。」
「へぇ~すごいなぁ・・・。これ、飲んでるの?」
「まぁ、気が向いた時に使ってるよ。量が量だから使い切るのに何年かかるんだろう。って感じだけど。」
「・・・私が淹れに来てもいい?」
「え?」
「私がこの紅茶、淹れに来てもいい?ここに。」
「・・・。そりゃ、俺はうれしいけど。いいのか?面倒だろ。」
「ううん、どうせ部屋にいても一人だから。一緒に居させて。それに、こんなにたくさんの種類の紅茶、私も飲んでみたいから。」
正直、マツさんも紅茶が好きだったことに一番驚いていた。共通の趣味があると話しやすいし、なにより楽しい。
「えっと、やっぱり駄目かな。ほぼ毎日男子の部屋に上がるなんて・・・。」
「いや、いいよ。むしろお願いするよ。来てくれると嬉しい。」
もう、そう言うほか無かった。
紅茶も入れてもらってから二人とも課題に手を付け始めた。課題というのは始業式に大学に提出する小説だ。各自、一作品以上をノルマとされている。以上というのは増えれば増えるほどに単位がもらいやすくなるからだ。まだどういった内容の授業をやるのか聞かされていないものの、書くに越したことはない。
「おいしい・・・。」
半ば無意識に紅茶を啜ったのだが、温度も香りも味も美味しいと感じた。
「ありがとうございます。」
「こちらこそありがとう。」
振り返ると嬉しそうにほほ笑む顔があって、心臓の鼓動を無視するように課題に戻る。
あんな顔をされては、何と言うか、困る。
「ねぇ、土浦さんはどんな小説書いてるんですか?」
脳裏をよぎる嫌な過去はここにはない。純粋な疑問だ。
「今は課題用に、田舎の主人公が高校生になってから都会に出てきて、たくさんの衝撃とか友達とかと出会う物語書いてる。隠し要素はメインヒロインが同じ幼稚園育ち。」
「隠し要素・・・。」
「マツさんは?」
「えっと、からくり屋敷にとらわれた主人公のバットエンド。」
「バットエンドかぁ・・・。そういえば、バットエンドは書いたことないんだよなぁ・・・。」
人気が出たら同人誌になってそうだな。と思ったが言わないでおこう。
「逆に私はトゥルーエンドを書いたことないんです。どうしてもその、主人公が絶望する顔ばかり浮かんでしまって・・・。土浦さんはバッドエンドはお嫌いですか?」
「いや。難病ものならいくつか読んだことあるよ。だからまぁ、書けないだけで嫌いじゃないさ。」
話したり話さなかったりしながら、小説を書き続けていた。
「終わったぁ!」
「お疲れ様。」
光里がやっとの思いで一作品完成させたので、ここで一区切りすることにした。
「ありがと広くん。広くんはとっくに終わってたのに付き合ってくれてありがとうねぇ。」
「いいよ、それよりご飯食べよ。さすがにおなか減っちゃったし、今日は冷凍ピザでいい?」
「私もそれがいい~。」
呼び方は書いてる最中に話し合った結果、こういう事になった。
ピザもレンジで温めてからローテーブルの上に出す。
「ピザなんていつぶりだろう。あっ、ピザカッターある?」
「あるよー。」
ピザカッターを渡してから小皿と、一応フォークも置いておく。
「広くん、フォークでピザ食べるの?」
「一応置いておこうかなって、あと、これ、枝豆。」
「枝豆。」
「うん、おばあちゃん家から時々送られてくるから、塩ゆでにしておいてるんだよ。豆類苦手だったりする?」
「ううん、大丈夫。それに枝豆の塩ゆで好きだし。」
「「いただきまーす。」」
やっぱり、楽しかった。
そのあとも紅茶淹れに来てくれたり、一緒にゲームしたり、小説を書いたり、感想を話したり、読んだりしていたら、始業式が翌日に待っていた。
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