第11話~真美サイド~
「ありがとう充男」
放課後になり、あたしはようやく充男に声をかけることができた。
みんながいる前で話しかけたら、きっと充男に迷惑をかけてしまうから避けたのだ。
「いや。それより早く変質者が見つかるといいな」
「そうだね……」
あたしはぎこちなく微笑む。
あまり人と会話してこなかったから、どう会話を弾ませればいいかわからない。
とにかくお礼を言わないといけないと思っただけだった。
「じゃ、あたし帰るね」
「なぁ真美」
帰ろうとするあたしを充男が引きとめた。
振り向くと、真剣な表情の充男がいる。
「今朝の件は本当に変質者だった。でも、これがキッカケでもっとエスカレートするかもしれないぞ?」
その言葉に戸惑い、あたしは視線を漂わせた。
なにがエスカレートするの?
なんて、聞けなかった。
イジメの話に決まっている。
「良かったら、俺に話してくれないか?」
充男の言葉に心臓がドクンッと跳ねた。
こんなに優しくしてもらったのは久しぶりにことで、どう反応すればいいかわからない。
もしかしたらこれも紗弓たちのイジメかもしれない。
2人がどこかで見ているかもしれない。
そんな嫌な予感ばかりが胸をよぎる。
そうしている間に充男は小さくため息を吐きだした。
「話したくないなら、無理にとは言わない」
そう言われて、一瞬焦った。
本当は聞いてほしい。
助けてほしい。
充男が逃げてしまうと思ったあたしはどうにか口を開いた。
「あ、あたしは……」
「うん」
充男が真剣な表情であたしを見つめる。
「あたしは……!」
イジメられたくない。
これ以上、ヒドイことをされたくない!
そう言う前に、廊下から声が聞こえてきた。
「充男、なにしてんだよ、行くぞ!」
クラスメートの翔の声だ。
その瞬間あたしの喉はキュッと詰まってしまった。
もうすぐ声として出てきそうだった言葉が完全に飲み込まれてしまう。
「ちょっと待って!」
充男が返事をしてあたしに視線を戻す。
「なに?」
聞かれて、あたしはゆっくり、左右に首を振った。
終わったと思った。
あたしは助かるチャンスをみすみす逃してしまったのだ。
充男の力を借りれば、充男の手を握れば、なにかが変わるかもしれないのに。
「本当に、なにもないのか?」
なぜか充男の声は泣きそうだった。
あたしは驚いて充男を見つめる。
「どうしてそんな顔を……?」
その質問に答えることなく、充男は教室を出ていったのだった。
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