第10話~真美サイド~

ある日教室へ入ると、クラスメートたちからの視線を感じた。



ひそひそとささやき合う声。



またあの2人がなにかしたんだろうな。



漠然と考えながら自分の席へ向かう。



と、席に近づけば近づくほど、生臭い、嫌な臭いが漂ってきた。



あたしは顔をしかめ、鼻をつまむ。



否や予感がする。



これ以上見ない方がいいと、直観が告げている。



それでもあたしは足を前へ進めた。



この臭いの正体が自分の机にあるなら、それを取り除かなければならないと思った。



クラスメートの麻子とすれ違う瞬間「キモッ」と呟かれた。



あたしはそれにも反応せずに机に向かう。



自分の机の下に赤い血だまりができているのが見えた。



あたしはハッと息を飲み、屈んで机の中を確認した。



「猫……」



あたしは小さな声で呟いた。



机の中には白い猫がねじ込まれていた。



それはもう大人になっている猫で、毛には血がついている。



あたしはすぐに机の中から猫を引っ張りだした。



瞬間……。



吐き気がこみ上げた。



白い猫はお腹が膨らんでいたのだ。



子供を身ごもっているとすぐに理解した。



これをした人間は、子供のいるこの猫を殺して、机の中に入れたんだ……!



愕然として膝をつき、立てなくなってしまった。



どうしてこんな残酷なことができるんだろう。



あたしをイジメるため?



だとしても、ここまでしなくても……。



そう思った時、紗弓と景子の2人が登校してきた。



2人が現れたことで、教室内に喧噪が始まる。



「見てよ紗弓。真美ったら気持ち悪いんだよ」



「あの猫、殺して自分の机に突っ込んだんだよ」



そんな声が聞こえてきてあたしは目を見開いた。



あたしがやっていないことはみんなわかっているはずだ。



だって、あたしが登校してきたとき、すでに猫はここにいたんだから。



「うわ、キモ」



紗弓がさげすんだ声で言う。



「さすがにあれはないよね」



景子が言う。



あんたたち2人がやったんでしょう!?



そう言いたくても、言えなかった。



友達がいないから。



誰も味方をしてくれないから。



声をあげる勇気が湧いてこない。



「今日、変質者が学校に入り込んだらしいぞ!」



嫌な雰囲気を払しょくするようにそんな声が聞こえてきて、振り向いた。



教室の後方のドアに充男が立っている。



充男は肩で呼吸をしていて、早く情報をみんなに伝えようとしている。



「変質者?」



麻子が聞く。



「あぁ。だからそれ、ちょっとそのままにしてくれって先生に言われた」



充男があたしの机を指差して言う。



「なに? 先生ももう把握してることだったの?」



「なんだ、そうだったんだ」



あちこちから納得の声が聞こえてきて、話しの中心は変質者へと変わっていく。



あたしはホッとして、泣きそうになってしまったのだった。

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