第12話~真美サイド~

翌日、紗弓はやけにイラついていた。



なにがあったのかはわからないが、あたしにはいつも以上に風あたりの強い日になった。



紗弓は八つ当たりをするようにあたしに怒鳴ってくる。



ノートと教科書をビリビリに破られ、お昼のお弁当はひっくり返された。



「明日、学校に来いよ」



放課後になったとき、紗弓はあたしの耳元でそう言ったのだ。



「え……」



明日は土曜日。



学校は休みの日だった。



「絶対に来いよ」



紗弓は低い声で言うと、景子と2人で教室を出て行ってしまった。



休みの日に学校に呼び出すなんて、いったいなにをする気だろう?



嫌な予感しかしない。



でも、来ないとなにをされるかわからない。



今日の紗弓はすごくイライラしていたから、それと関係があるのかもしれない。



どうしよう。



どうしよう……!



気がつけば、あたしは家の近くの公園のベンチで座っていた。



今は子供たちの姿もない。



きっと、ウイルスの影響が出ているのだろう。



ひと気のない寂しい公園。



だからこそ、今のあたしにはちょうどいい場所だった。



学校では泣く場所なんてない。



家でも、両親に心配をかけたくない。



泣くためにはもってこいの場所だった。



白いハンカチを目元に当て、グズグズと鼻をすすりあげる。



高校生にもなって、こんな場所で泣くことになるなんて思ってもいなかった。



「明日、どうすればいいんだろう」



行かなきゃいけない。



でも行きたくない。



あたしの心は分離してしまいそうだった。



「明日、なにかあるのか?」



突然聞こえてきた声に驚いて振り向くと、そこには充男が立っていた。



「充男!?」



「外から姿が見えたから」



充男はここにいる理由を簡潔に言うと、あたしの隣に座った。



「で、明日なにがあるんだ?」



質問しながら充男はあたしに缶の紅茶を差し出してきた。



おずおずと手を伸ばして握り締めると、とても暖かくてホッとした。



公園の入り口にある自販機で買ってきてくれたみたいだ。



「明日……学校に呼び出されて……」



紅茶のぬくもりのせいだろうか?



教室内ではどうしても話せなかったことが、ぽつぽつと口から出てきた。



「明日は休みだろ? 呼び出されたって、紗弓と景子か?」



あたしは頷いた。



同時に目の奥がジワッと熱くなるのを感じる。



こうして人に自分のことを話すのは高校に入学してから、はじめての経験かもしれない。



「まじか……」



充男は顔をしかめている。



「無視できないのか?」



その質問にあたしはブンブンと左右に首を振った。



そんなことをしたら、後からどうなるかわからない。



「そっか。それなら俺も一緒に行く」



「え?」



予想外の言葉にあたしは目を見開いて充男を見た。



充男はニカッと白い歯をのぞかせて笑っている。



「別に、ひとりで来いとは言われてないんだろ?」



「そうだけど……」



でも、勝手にそんなことをしたら絶対に怒られう。



そう思い、下唇を噛みしめた。



「大丈夫。守ってやるから」



どうして充男はこんなに優しくしてくれるんだろう?



自分の頬が熱くなるのを感じる。



このままじゃ勘違いしてしまいそうで、あたしは慌てて立ち上がった。



「あ、ありがとう」



小さな声でそう言い、充男から逃げるように公園を出たのだった。

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