第8話
そう思った時だった。
ワンピースの女が充男の真後ろに立った。
画面を見ている緊張から呼吸が止まるのを感じた。
次の瞬間だった。
途端に充男が動いたのだ。
ようやく回線が繋がり、正常に戻った。
しかし女の姿は消えない。
白い女は充男の真後ろに立っている。
「逃げて!!」
真美の悲痛な叫びに充男は驚いて目を丸くする。
なにがあったのだと振り向いたその先には……あの女がいた。
「うわぁ!!」
充男が悲鳴を上げて椅子から落下し、タブレットも一緒に落ちた。
充男が四つん這いで逃げようとする姿が写る。
しかしその目の前には女が立ちはだかっている。
女の手は充男へ向けて伸ばされていた。
「いっ!」
充男が悲鳴にならない声を上げ、咄嗟に方向転換しようとする。
充男の顔が画面上でアップになった。
その時だった。
白くて異様に細い手が後ろから充男の首を掴んだのだ。
「充男!」
真美が大きく息を飲む。
「ぐっ……ぎっ……」
充男の顔が見る見る歪んでいく。
細い手を振りほどくために必死でもがいているが、手の力は少しも緩んでいない。
むしろさっきより更に強く食い込んでいるように見える。
充男と女では体格も全く違うのに、充男はなぜか歯が立たない状態だ。
「やめろよ! やめろぉ!!」
真美が泣きながら叫ぶ。
その声が聞こえたのかどうか、女の手の力が一瞬緩んだようだ。
充男が大きく息を吸い込む音が聞こえてきた。
「充男、大丈夫!?」
あたしの質問に返事をする暇も与えられなかった。
女はまだ両手に力を込め始めたのだ。
それはまるで充男の反応をあたしたちへ見せて楽しんでいるような様子だった。
途端に吐き気がこみ上げてくる。
充男の顔は真っ赤に染まり、眼球が飛び出してきている。
「嫌……!」
景子が目を逸らす。
真美が泣き叫ぶ。
男2人は充男を助けるため外へ出ようと、必死で窓をたたき割ろうとしていた。
それぞれが懸命に動いている中、充男の体から力が抜け落ちていく瞬間を見た。
見開かれた目。
だらしなく流れるヨダレ。
舌は極限まで伸び切った状態で、静止した。
「あ……」
あたしは小さく呟いた。
それでも女の手は力を緩めなかった。
ギリギリと締めあげられる首は今や半分ほどの細さになっている。
「もうやめて!」
真美の声も、もう届かない。
充男は死んだ。
もう死んだのに、女はやめない。
締めあげた首が極限まで細くなったときに、ミチミチミチッ! と、肉が破裂していく音が聞こえてきた。
女の指の間から、ダラダラと血が流れ出す。
次の瞬間、ブチンッとあり得ない音が聞こえてきたかと思うと、充男の首と胴体は引きちぎれていた。
床にゴロリと転がる充男の頭を見て、あたしたちの悲鳴が響き渡ったのだった。
女の、布を被った顔がグッと画面上に近づいたかと思った時、その姿は嘘のように消え去っていた。
画面上に残ったのは死んでしまった充男の姿だけ。
あたしは口から飛び出してきそうな心臓をどうにか沈めて、深呼吸を繰り返す。
こんなのあり得ない。
こんなこと起こるわけがない。
きっと全部充男の演技だ。
この後笑いながら起き上るにきまっている。
しかし、いくら待ってみても充男は起き上がってこなかった。
相変わらず首と胴体は千切れたままで、さっきの女も出てこない。
「くそっ! タブレットの電源が切れない!」
翔の声が聞こえてきてハッと我に返った。
そうだ。
ぼんやりしている暇はない。
あたしはタブレットの電源ボタンに触れた。
微かな突起に揺れて長押しする。
しかし、画面はなにも変わらない。
「なんで、電源きれないんだけど!?」
「こっちも同じ!」
景子が返事をする。
他のみんなも電源が落ちなくなってしまったみたいだ。
画面も変えられない、外にも出られない、電源も落とせない。
この異常事態に、呼吸が浅く短くなってくのを感じる。
「やっぱり、おとついあんなことをしたからだよ!」
そう言ったのは真美だった。
一瞬全員が静まりかえった。
重たい空気に押しつぶされそうになる。
「……違う」
あたしは低い声で言い、真美を睨みつけた。
あたしに睨まれて、真美がひるんだのがわかった。
「おとつい充男が参加したのはあんたのせいでしょ」
その言葉に真美が大きく目を見開いた。
表情が歪み、うつむいてしまう。
そうだよ。
おとつい、充男はアレに参加するはずじゃなかったんだ。
参加したのは真美がいたから。
あたしたちのせいじゃない……!
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