第7話

「おい、充男?」



航大の声が聞こえてきて画面に視線を戻す。



すると充男の画面だけ少し乱れているのがわかった。



「ど……した?」



充男はキョトンとした表情を浮かべている。



「充男、画面がおかしいよ!?」



切羽詰った声で言ったのは真美だった。



「真……? よく……なに……ど……」



ザーザーと、昔のテレビの砂嵐のような音が混ざり始めてあたしは顔をしかめた。



充男の画面は動いたり止まったりと繰り返している。



その間になにか別の声が聞こえてきた気がした。



ね……を……やって……。



それは女の人の声で、充男のものではないとすぐにわかった。



「充男、その部屋他に誰かいるの?」



あたしが質問したとき、充男の画面は完全にフリーズしてしまっていた。



止まった画面は時々上下に乱れて、充男の顔を奇妙に歪める。



「充男、返事しろ!」



翔が叫ぶ。



「ダメだよ、完全に止まっちゃってる」



景子がうんざりした声を上げる。



次から次へとなんなのだと、疲れた表情になっていた。



あたしは充男の画面をジッと見つめる。



さっきから女の人の声が聞こえてきているけれど、それはノイズ交じりでハッキリと聞きとることはできない。



断片的に「ね」「を」「やって」と聞こえてくるばかりだ。



それだけなのに、しっかり耳を傾けているとだんだん気分が悪くなってくる声だ。



あたしは声に集中するのをやめてタブレットから少し身を離した。



その時だった。



あり得ない光景が目に飛び込んできて、「あっ!!」と、声をあげた。



「どうしたの紗弓?」



景子たちは気がついていないようだ。



「ねぇ、あれ……」



そこまで言って言葉を切り、充男の画面を指差した。



なんと言えばいいのかわからなかった。



こんなのあり得ないことなんだから。



充男の動きはいまだ止まったままだ。



少しも動いていない。



それなのに……画面後ろに映っている部屋のドアがゆっくりと開いていくのだ。



「嘘だろ……」



航大が両手で頭を抱える。



「これ、充男がわざとやってんじゃないのか? 俺たちをビビらせようとしてさ」



翔は必死に笑顔を作ろうとしているが、声が恐怖で震えている。



その間にも充男の部屋のドアはゆっくりゆっくりとと開いて行っているのだ。



「充男聞こえてる!? 返事をして!!」



真美の悲鳴が耳にうるさい。



真美がこれほど必死になっているところを始めて見たかもしれない。



それでも充男は動かない。



今現在の充男がどうしているのかもわからなかった。



その時、充男の部屋のドアに白い手がかかったのを見た。



「ひっ!」



それが画面上からでも、生きた人間のものではないと、咄嗟に理解できるほど細く、白い。



骨を皮だけのようなその手はドアを押し開き、その奥には白いワンピースを着た女の姿を確認することができた。



「み、充男……? その人、誰?」



景子が聞く。



しかし、充男はまだ動かない。



自分は関係のない場所にいるのに、一気に室温が下がった気がして強く身震いをした。



足先が異様に冷たい。



女が完全にドアを開ききった時、ノイズ交じりだった声が大きく聞こえるようになっていた。



ね……を……やって……。



ね……を……やって……。



ね……を……やって……。



音は大きくなったのに、同時にノイズも大きくなり、更に不快な気分にさせられる。



あたしは思わず両耳をふさいでいた。



声が大きくなる度に、女の姿が近付いてくる。



左右に体を揺らし、長い髪の毛が顔を隠している布の下から見えている。



それは確実に充男へ近づいて行く。



「充男!!」



知らない間に真美が涙を零していた。



画面に張り付くように接近して、充男の名前を呼び続けている。



「充男、後ろ!」



景子が叫ぶ。



「充男!」



全員が充男の名前を呼んでいた。



このままじゃまずい。



早く気がつけ。



早く後ろを向け!



そんな思いで叫ぶ。



しかし充男は動かない。



画面はピタリと止まったままで、あたしたちの声が聞こえているのかどうかも判断できない。



どうか部屋の外へ逃げていて。



お願いだから……!

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