第6話

「ちょっと……!」



景子が慌てた様子でカメラの前に戻ってきた。



その顔は少し青くなっている。



「どうしたの景子?」



「ドアが開かないの!」



「え?」



首をかしげるあたしに景子はタブレットを持って移動し始めた。



画面上には景子の部屋のドアが映し出されている。



「ほら、どうしても開かないの!」



景子は何度もドアを開けようとするが、ドアはびくともしない。



鍵がない部屋なので、鍵がかけられているということもないみたいだ。



「部屋の外になにか置かれてるんじゃない?」



「でも、今家にはあたしひとりなんだよ!?」



景子の声が切迫している。



どうやら冗談ではないみたいだ。



「わかった。じゃあ今からそっちに行くから」



あたしはそう言い、すぐに立ち上がった。



一瞬タブレットの電源を落とそうかと思ったが、思いとどまった。



今スマホの通信機能はすべて使えなくなっている。



景子に連絡するためにタブレットは持っていた方がいい。



あたしはタブレットを片手に部屋のドアへ向かった。



画面上で景子はまだ必死にドアと格闘している。



あたしは自分の部屋のドアに手をかけて……「え」と、小さく呟いていた。



あたしの部屋も景子の部屋と同じで、鍵がない。



けれどドアはガッチリと固められているように、ビクともしないのだ。



あたしは横の棚にタブレット置いて両手でノブを掴む。



しかし、やはりドアはビクとも動かない。



「紗弓、どうした?」



あたしの異変に気がついた航大が声をかけてくる。



「ドアが開かないの!」



「嘘だろ?」



「本当だって!」



押しても引いてもドアは微動だにしないのだ。



まさか、お母さんがドアの前に何か置いてしまったんだろうか?



「お母さん、いるんでしょ!? ドアを開けて!」



外へ向けて懸命に叫ぶ。



しかし、耳を澄ませてみても家の中の物音は少しも聞こえてこなかった。



まさかお母さん、勝手に外に出ちゃったのかな?



そう考えてから左右に首をふる。



ううん、あたしはずっと家にいたんだもん。



玄関が開いたり、車のエンジン音がすれば気がつくはずだ。



でも、そのどれもを聞いていない。



血の気がスッと引いてくのを感じる。



「一体どうなってんだよ!?」



翔が叫ぶ声が聞こえてきてあたしはタブレットを確認した。



見ると、翔は椅子を振り上げて窓ガラスへぶつけている。



「なにしてるの!?」



思わず声を上げる。



「ドアも窓も開かないんだよ!」



椅子は窓ガラスに弾かれて床に落下した。



「嘘……」



あたしは机の前にある窓へ手を伸ばす。



鍵を開けるが、窓はビクとも動かない。



「なにこれ、どうして!?」



6人全員が混乱し、悲鳴を上げ始めていた。



みんな、部屋から出られなくなってるんだ……。



その瞬間背中に虫唾が走った。



言い知れぬ悪寒に体が震える。



「タブレットを使って、外と連絡を取ろう」



充男がそう言って操作し始める。



あたしはゴクリと唾を飲み込んでその様子を見つめた。



「ダメだ。画面を切り替えられない!」



「どうして!? やり方間違ってるんじゃないの!?」



景子が叫ぶ。



あたしは自分のタブレットのメール画面を呼び出そうとした。



しかし、充男が言うとおり画面を切りかえることができないのだ。



「なんで……」



これじゃ完全に陸の孤島だ。



あたしは窓から外の様子を確認してみた。



太陽はまだ高い位置にあり、外は明るい。



しかし、通行人の姿は見当たらなかった。



「誰か! 誰か助けて!」



それでも窓をバンバンと両手で叩き、声を張り上げる。



近所の人が気がついてくれるかもしれないと思ったが、10分間声を出し続けても誰も反応してくれなかった。



「どうなってるのこれ。あたしたち、どうなるの?」



画面上で景子が不安の声を漏らす。



「そんなのわかんねぇよ!」



航大がイラついたように髪の毛をかきむしっている。



混乱と不安と恐怖しかこの画面上から感じ取ることはできなかった。



「一体どうすればいいの……」



どうにか外に連絡をとる方法はないだろうかと、部屋の中を見回してみる。



しかし、あるのは使えないスマホと、仲間を映し出しているだけのラブレットだけだ。



あたしは下唇を噛みしめた。



「ねぇ誰か、部屋の中に電話とかないの!?」



スマホがダメでも、自宅の固定電話の子機ならあるかもしれない。



しかし、誰もが左右に首をふる。



スマホがある今、部屋に固定電話を置いておく必要なんてないのだ。



希望がどんどん閉ざされて行く。



それは暗い穴の中に落下してくような感覚だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る