第5話

「なにこれ、メッセージアプリが使えないんだけど」



思わず声に出して文句を言っていた。



「え?」



景子が聞き返してくるので、あたしはカメラに向けてスマホを掲げた。



「スマホのアプリ、使えないの」



さっきまで麻子とやりとりできていたのに、今はもうできない。



「不具合じゃない?」



「景子、ちょっとメッゲージ送ってきてみてよ」



「わかった」



景子は頷くと一旦画面から消えて、白いスマホを持って戻ってきた。



椅子に座って少し操作をしただけで、すぐに顔をしかめる。



「ダメだ。あたしのアプリも動かない」



「嘘でしょ?」



スマホもタブレットも調子が悪いんじゃなにもできない。



「俺のも使えない」



「俺のもだ」



男子たちがスマホを確認して口々に言う。



真美も同じように頷いている。



冗談じゃない!



メッセージアプリは友人と繋がるための大切なアイテムだ。



これがないと授業のスケジュールも回ってこなくなる。



「もう、ほんとイヤなんだけど」



あたしは乱暴にスマホの操作を続ける。



気分転換をするために麻子へ電話をかけるのだ。



しかし、通話ボタンとタップしてみてもなにも聞こえてこない。



いくら鳴らしてみても、麻子は取らなかった。



「なんなの?」



電気機器はいつ壊れるか分からないと言っても、あたしは今年に入ってからスマホを買い替えたばかりだ。



もしかしてボロい機種をオススメされたんだろうか。



あたしは携帯ショップの男性店員の顔を思い出して苦い気分になった。



少しイケメンだと思ったから、店員のオススメをそのまま購入したのだ。



本体代8万円は毎月アルバイトをして支払っているというのに……。



ふつふつと怒りがこみ上げてくる。



「なぁ、これなんかおかしいって」



あたしと同じようにスマホをいじっていた翔が呟く。



「どうしたの翔?」



聞くと、あたしと同じように通信系のアプリが全く使えないというのだ。



これじゃ暇つぶしも気分転換もできない。



「ま、いいじゃん。飽きるまでいろいろ話しようよ」



気分を変えるように言ったのは景子だった。



景子もスマホが使えなくなっているようだ。



「そうだけどさぁ」



幸い、この6人の中で4人は仲のいい、いつものメンバーだ。



こうして会話していることも苦にはならない。



「じゃあさ、これからみんなでひとつずつ、真美の悪いところを上げていこうよ!」



「あはは、いいねそれ!」



景子の提案にあたしはさっそく手を上げる。



「まずは不潔でしょ。成績も悪いし根暗だしぃ」



「おい、そういうのはやめろよ」



せっかくいい調子だったのに、充男はしかめっ面をして止めに入った。



「なによ充男、ノリが悪いんだから」



「それよりも、もっと気になることがあるだろ」



「気になること?」



景子が聞き返すと、充男は真剣な表情で頷いた。



「このメンバーって、おとついも集まっただろ」



その言葉に一瞬誰もが黙り込んだ。



画面上に沈黙が訪れる。



「だから何?」



あたしはふーう、と大きく息を吐き出して聞いた。



「おとついはおとつい、今日は今日でしょ」



「そうだけど、なにかあるって思わないか?」



充男の言葉に景子が左右に首をふる。



「別に、思わないよ。こんなのただの偶然じゃん?」



「そうだよな。タブレットの不具合だ」



賛同したのは翔だった。



「航大はどう思う?」



黙っている航大へ話しを振ると「俺は紗弓と同じ意見だから」と、言われた。



「そっか。じゃあ、あたしもただの偶然だと思う」



あたしの言葉に充男はため息を吐きだした。



「おとついと同じメンバーだけここに残って、退室もできないしスマホも使えなくなったのか?」



充男の言葉にあたしはピクリと眉を動かした。



「なにが言いたいの?」



「だからさ――」



「ごめん、あたしちょっと飲み物取ってくる」



のんきな声で景子が言い、席を立った。



それを見てピリピリし始めていた空気が一気に和む。



「充男はちょっと気にし過ぎなんだよ。こんなの、すぐに直るってば」



あたしは穏やかな口調になって言った。



おとついのメンバーが、今日も残っている。



それは単なる偶然だ。



特に深い意味なんてきっとない。



別に、この6人でオンラインで繋がっているのだってどうってことはない。



嫌になったら、タブレットの電源を落とせばいいだけだ。



深く考える必要なんてない。



あたしはそう思い、電源ボタンに指を伸ばした。



タブレットの右横についているボタンを長押しすれば強制的に電源を落とすことができる。



切ろうと思った、その時だった。

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