第3話
翌日。
学校は休み。
だけどオンライン授業はある。
さすがに服装に指定はないみたいだけれど、クラスメートに私服を見られるのはちょっとはずかしい。
ということで、あたしは朝制服に着替えたままの姿で自室にいた。
お母さんが教えてくれたようにメッセージアプリにはオンライン授業の日程が送られてきていた。
今日は昼の2時から3時まで数学の授業をやるみたいだ。
「うへぇ、よりによって数学かぁ」
あたしはベッドの上に仰向けに寝転んだ状態で舌を出す。
たった1時間、ひと科目だけなのに運悪く一番苦手な授業が行われるらしい。
明日は同じ時間から国語となっている。
どうせなら国語の方が良かった。
本を読むのは好きだから、国語の教科書を読むことも苦痛ではないからだ。
ぼんやりとオンライン授業のスケジュールを確認していると、クラスメートの麻子からメッセージが入った。
《麻子:オンライン授業ってダルくない?》
そのメッセージにあたしは笑う。
麻子はどんな授業の前でもダルイダルイと言っている。
それが口癖なのだ。
メッセージでも同じ言葉が送られてきて、つい笑ってしまった。
《紗弓:わかる。休みなら休みでいいよね》
《麻子:しかも1時間だけとか、余計にダルイ》
《紗弓:その1時間のためにメークしなきゃだもんねぇ》
《麻子:それだよね! クラスの大石君の前でスッピンとかありえないから!》
《紗弓:学年1のイケメンだもんね。先生もさ、もうちょっとこっちの都合とか考えてほしいよねぇ》
そんなメッセージをダララダと繰り返す。
イケメン同級生に顔を見せるのだから、オンラインでだって手を抜くことはできない。
先生たちはそれを考慮することはない。
だから簡単に1日1時間だけ授業します。
なんてことが言えるのだ。
こちらはその1時間のために着替えをしてメークをして、可愛くならなきゃいけないのに。
いっそ、画面の画質が悪かったらいいのになぁ。
なんて考えてしまう。
でも、今の技術でそこまで悪い画質のものは作られない。
スマホでも、もっと綺麗に、もっと高画質に、とずっと言われてきているのだから。
《麻子:あ、もう12時じゃん! ご飯食べてメークしなきゃ!》
麻子からのメッセージで時計に視線を向けると、いつの間にか2時間くらいが経過していた。
クラスメートとのメッセージは時間を忘れることのできるアイテムのひとつだ。
《紗弓:だね! また、授業でね!》
昨日まで学校で会っていたクラスメートたちと画面上で会うのは、なんだか不思議な気分だった。
自分の部屋の様子を見られたくないようで、背景には写真映像を合成している生徒もいた。
「なんだよ田中。お前パジャマじゃん!」
誰かの声で画面上を確認すると12分割された画面の右上にパジャマ姿の田中君が写っていた。
「違うよ、部屋着だよ!」
田中君は顔を真っ赤にして抗議する。
「え、それ部屋着?」
女子にまでそう言われて、田中君は更に赤くなっていく。
その様子を見てあたしは声を上げて笑った。
生徒の半分くらいはあたしと同じように制服姿だった。
「よし、じゃあ授業を始めるよ!」
12分割の一番上の枠に数学の先生が現れて言った。
手には教科書を開いて持っていて、背景はいつもの学校のようだった。
「教科書15ページから」
言われて、手もとの教科書を捲る。
紙のこすれる音がタブレットの中から聞こえてきた。
「15ページの一番上に解説が乗ってると思うけど……」
先生の声が突然途切れた。
教科書から顔を上げて確認してみると、先生の動きが完全に止まってしまっている。
「あれ? 回線が悪いのかな?」
「俺も止まった」
そんな声が聞こえてきて画面上を確認してみると、仲山航大(ナカヤマ コウダイ)が困り果てた顔をしている。
航大の回線は生きているようだ。
でも、他のクラスメートたちの中にも止まってしまっている子がいる。
「どうなってんの?」
そう言ったのは吉口景子(ヨシグチ ケイコ)。
「ちょっと待って、回線が正常なのって誰?」
画面へ向けて聞くと、何人かが手を挙げた。
仲山航大、吉口景子、倉本真美(クラモト マミ)、田ノ岡翔(タノオカ ショウ)、仁木充男(ニキ ミツオ)。
そしてあたし、辻川紗弓の6人だった。
「なにこれ、こんなんじゃ授業になんないじゃん」
景子が頬をふくらませて言っている。
「授業受けなくていいんじゃねぇ?」
そう言ったのは充男だ。
充男は早くもスマホを手にしている。
あたしたちは何度か他のクラスメートに声をかけてみたけれど、反応が戻ってくることはなかった。
本当にこのまま授業受けなくていいのかな?
そう思い始めた時だった。
バンッと音がしたかと思うと、あたしたち6人を覗いて全員の画面が暗転したのだ。
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