第2話

2020年、4月。



世界的に蔓延するウイルスによって、あたしたち日本も大きな打撃を受けていた。



「紗弓、さっき学校から緊急連絡網が回ってきたわよ」



朝起きて、いつも通り制服に着替え、顔を洗うため最初に洗面所へと向かった時だった。



4月上旬のまだ冷たい水を掌にためていっていた時、ドアが開いてお母さんがそう言った。



「え?」



あたしは顔を上げて首をかしげる。



手の中にたまった水はどんどん隙間からこぼれ落ちていく。



「今日から一週間、学校がお休みになるって。3年生なのにこんなことになるなんて、不安よねぇ」



「え?」



さっきとは違うニュアンスで、同じように聞き返す。



手の中の水は完全になくなってしまったが、また水道水をすくうことはせず、洗面台の隣に掛けられているタオルで手を拭いた。



「お休みって、ウイルスのせい?」



「そうみたい。一週間っていうのも目安なんですって」



「目安って?」



「感染者数がもっと増えていったら、また休みの期間を伸ばしていくんですって」



あぁ、なるほど。



あたしはお母さんの言葉に頷いた。



それなら最初から一ヶ月休みとかにして、ウイルスが弱まったときに授業をすればいいのに。



「ってことは、今日から一週間は休みかぁ」



あたしは大きく息を吐き出す。



休みなのは嬉しい。



読みたいマンガもたまってきていたし、録画しておいた映画も見ることができる。



でも、こんなに急に一週間お休みになっても、なんだか実感がわいてこなかった。



「明日からはオンライン授業もあるみたいよ」



「はぁ!?」



あたしは思わず大きな声を上げ、その場に崩れ落ちてしまいそうになった。



「なにそれ、オンライン授業って!?」



「紗弓、学校でタブレットを使ってるでしょう? それを使って授業をするらしいわよ。1日1時間だけだけど」



「えぇー、めんどくさい!」



思わず頬をふくらませて文句を言う。



授業があるなら休みじゃないじゃないか!



「そんなこと言っても仕方ないでしょう? 授業のスケジュールはメッセージアプリで送ってくるらしいから、それを確認してくださいって」



「じゃあ、メッセージアプリをやめればメッセージが受け取れなくて授業を受けなくていいってこと?」



「なにバカなこと言ってるの。早く顔洗って、ご飯終わらせて起きなさい」



お母さんは呆れた声でそう言い、洗面所を出ていったのだった。

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