第5話 勇者、どう攻略する?
「バリィいい! 帰ったよお! 強かったあ、勇者!」
暗く陰湿な会堂のなかに、屍王が声を上げながらやって来た。武王はその部屋の中におらず、別室にいるらしい、と屍王は思った。
屍王が見渡していると、空間が鏡のように割れる現象と共に、フード姿の法王が部屋に踏み入る。法王が日傘を持っていることに屍王は気付き、へらっと笑った。
「あ、僕の日傘。忘れてたあ」
「ケケ、敵陣に荷物を忘れるのはだめですぞ! 毒や爆弾ならともかく」
「ダーラウありがとおお」屍王は頷き、日傘を受け取った。
「バリィ殿はどうしたんですぞ? どこかに出ているんですかな」
「いやあ…いるよ。バリィの血の匂いがするもん」と屍王は告げ、天井を見上げた。「アーザの部屋にいるのかなあ」
「そうと決まれば、偵察結果を報告ですぞ! バリィ殿は勇者への打ち手を考えているはずですからな、きっとアーザ殿の戦いの記録を調べてるんぞ」
そして二名はアーザの部屋の前に至る。扉が開きっぱなしで、「入ってこい」という意思が暗に示されていた。
「バリィ、いる?」と屍王が声を掛けると、真っ赤な眼が差し向けられる。
「勇者はどうだ、強かっただろう」
武王は前置きもなくそう告げる。
「うん。やばいねえ、僕一人だったら、きっと勝てないねえ」
「ケケ、聖剣はアンデット特効がえぐいですからな! ククス殿は特に、直接対決に向いていないでしょうぞ」
「状況を把握できたようなら良かった。ただ勇者一行は勇者以外も強い。ちゃんと見たか?」
と、武王は尋ねた。
「当然ですぞ!」と法王は頷く。「『僧侶』の魔法は大したもんですな! オリジナリティはないが、威力が素晴らしかったですぞ!」
「うん。あとお、『射手』ちゃんって言ったっけえ? 僕らを射抜いたの」
「射貫かれたのはククス殿だけぞ…」と法王は訂正する。
「そいつがねえ、すごかったあ。どうやって僕らのこと、見つけたんだろお。それに、矢を当てるのもやばいよねえ」
「ともかく戦力について概ね理解したようだな」武王はそう言いつつ、腕を組んだ。「現在の勇者パーティは、勇者本人を含めてその三人のようだ」
「…現在のお? もしかして、これから増えるのお? やだなあ――」
「いや」
武王は屍王の発言を、首を振って否定した。
「俺が言いたかったのは、『以前は四人だった』ということだ。アーザと戦い――、一人減った」
「そうですぞ、ククス殿。勇者パーティは元四人。アーザ殿が一人道ずれに無力化してくれたんですぞ!」
「へえ、そうだったの?」
屍王は、自分が見た勇者パーティを思い返す。
聖剣の『勇者』
魔法の『僧侶』
索敵の『射手』
「……その減った一人って誰え?」と、屍王は尋ねた。
「確か――」武王は顎に手を当て、言葉を思い出す。「――『医師』。治療の『医師』が前まではいた。だが、アーザが封印した」
「…封印?」屍王は首を傾げた。
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