残り三王パーティ
第4話 偵察「勇者強すぎ」
人の身長ほどに長い刀剣が掲げ構えられると太陽の光を反射し、虹色の閃光が荒野の戦場に走る。
屍が薙ぎ払われ、薙ぎ払われ、薙ぎ払われた。
裂かれた屍の肉体は、地に倒れ込むより早く灰となり、後にはなにも残らない。消滅していた。
灰が散るなかで―――「勇者」は刀剣を翻し、虹の光を散乱させた。
魔獣とアンデットが群れ、死角から雪崩れ込むように勇者へ襲い掛かる。しかし、勇者の背後から巨大な火柱が上がり、燃え盛る炎に呑まれ、魔獣はのたうち回る――勇者の仲間、通称「僧侶」の火魔法である。かたや、アンデットは燃える体のまま勇者に迫るが――虹の閃光が走り、体が裂かれ、ただ灰燼に帰すのだった。
―――そんな風に、粛々とモンスターが狩られる様子を、とおーくから屍王と法王が観察していた。
「なあにあれ、強すぎじゃない? 無双してるねえ、勇者」日傘を持ち直し、屍王は目を細める。
「ケケッ、うかつに近づけませんぞ! 『僧侶』の魔法も大したもんですな!」法王は肩を竦めた。
「あ~んな強かったっけ、あの人ぉ。むかーし、僕らを倒そうとかほざいてたときと全然違うね。ちらっと見ただけだけど…」
「それはそうですぞ、なにせあれは数年も前の話ぞ! 勇者が聖剣を鍛え、勇者もまた聖剣に鍛えられて強くなっていったようですぞ」
「…聖剣に鍛えられる? そうなんだあ。勇者って変なやつ」
屍王は日傘の奥から、じいっと、数キロ先の戦場の様子を眺めていた。屍を操り、自分の位置を勘ぐられないようにしていた。屍の残弾は、魔獣が殺されることで補充されるから、まだしばらく戦える――。
『お前ら、今の勇者を直接見てみろ。アーザが討たれてもおかしくはない、と思える』
武王のアドバイスに従い戦場に赴いた二名は、そうして戦いを眺めていたが――。
とおーくから二本の矢が放たれ、豪速のまま二名の王めがけて飛んできた。
法王は、魔法で矢を直角に跳ね返し、地に突き刺した。びいん、と音がする。
屍王はとくに避けず、矢が頭部を貫通するに任せ、一歩分後退した。そして、平然と体勢を直す――片目を失っていた。
「…あ、見づらぁ。一旦帰ろうかなあ、僕」屍王は拗ねたように言った。その空乏と化した眼から、ぐじゅるる、と音が立つ。
「そうしましょうぞ。『射手』に位置が割れたようですぞ」
「うふふ。でもその人は、僕らを殺せるわけじゃないんだね」
「……はやく逃げないと、勇者までここに来ますぞ?」
法王が言い終える前に、屍王は骨となって、からんと音を立てて地面に崩れ落ちていた。残された開きっぱなしの日傘を拾い、閉じつつ、「むう」と法王は唸る。
「死んだような逃げ方は止めて欲しいですぞ、心臓に悪い…」と言い残し、法王もふと、姿を消した。
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