第2話 聖剣の勇者とは
四天王と呼ばれる魔族の巨大勢力が、たかだか人間ごときの国と拮抗する要因となった、たった一つの兵器。それが、「聖剣」である。
魔力ですら説明できない得体の知れない大きな力が込められたその美しい刀身は、ただし使用者を選ぶと言われている。
資格なき者は、剣を握れば憔悴し、酷ければ命を落とす。
ふさわしき者には、魔を払う力と尽きぬ生命力を与える。
よって、聖剣を振るわんとするものは、自身がどちらの末路をたどるのか分からぬままに、柄を握るしかない。
その特性から、剣を握るだけで人並み外れた「勇気」を要す。そして聖剣に選ばれた者が、聖剣の『勇者』と呼ばれるようになったのだ。
「……ということだ。ゆえに、『勇者』は人類最強の兵器である聖剣を扱うことが出来る今のところ唯一の人間だ」
武王がそう言って、話を終える。
「知ってるよー」と屍王は答え、
「ケケ、常識ぞ!」と法王も笑う。
武王は肩を竦めて、話を再開した。
「俺らのなかで最強のアーザがやられた今、やつの管理下の魔物も肉体が消滅した。すでに俺らの勢力の大半が削がれた――残る勢力は、ククスの持つアンデット、ダーラウの信者とゴースト……あとは俺が管理する魔獣だけだ」
「寂しくなったね…。世界からたくさん、魔物の断末魔が聞こえたもの。でも…あの時は少し興奮したよお! うふふふっ!」
「そんなことも言ってられませんぞ、ククス殿! アーザ殿がやられたのであれば、次に勇者一行が狙うのはきっと儂ら三人の誰かぞ。アーザ殿が勝てない相手に、どうすれば良いか今のうちに考えるべきぞ」
と、法王は苦言を呈する。
「どうしようねえ? 不死の僕でも、聖剣で斬られたら死んじゃうのお?」と、屍王は少女のような瞳で武王を窺う。
武王は腕を組み、そして息を吐く。
「死ぬ、というより、消える。聖剣で斬られたアンデットは滅せられて、無かったことになる。肉体は残らない。他の魔族とは違い、それだけで決定打となる」
「あー…そのせいで、僕のアンデットが通じないんだ、あの人…」
そう言って、屍王は唇を尖らせた。「アンデットの中には、元は人間や動物のやつも混ざってるのにー。勇気があっても慈悲は無いの? その勇者って」
「ケケ、命をかけた戦いをする敵に求めても仕方のないことぞ。それに、アンデットに噛まれるのをただ待つ人間などおらんぞ。儂だって待たんぞ」と法王は呆れたように告げた。
それもそうねえ、と屍王はどこ吹く風に呟いた。
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