席替え

あおいはがいじ

席替え

7月になった頃。僕のクラスで席替えをした。一番前で、右角の席。くじびきによる気まぐれで決まる。


隣の席になったのは、誰にでも仲良くしている八方美人の女の子。席替えの度に同じ班になり続けて、今回で3回目。隣の席になったのは初めてだ。

「また同じ班だね!」

誰にでもやさしいあの娘は席をくっ付けながら言う

「ほんとになー。」

僕の面白味のない返事。


あの娘と隣になって気付くことが色々あった。あの娘は授業中に眼鏡を掛ける。聞いたら黒板の文字が見にくい程度らしい。いままで掛けていたのを気に留めてなかっただけなんだろうけど、何かあの娘の事を少し知った気分になった。



あの娘はやる気の差が激しい。熱心にノートに写してると思いきや急にうつ伏せになって寝る。それを皆の前で先生に注意され恥ずかしそうにしていた。

けどあの娘は翌日同じ事をする。今まで前の席じゃなかったからバレずにいたんだろう。あの娘が寝てから数分だけ起こさずにいて、先生にバレる前に僕が起こす。

「おはよぉ〜」と疲れた感じで僕に言うから

「おはよ。」と挨拶を交わす作業。




ある時。休み時間が終わり、授業開始だというのに

あの娘が妙に上機嫌な感じだった。それを見て僕は

「何かいい事あった?」と何となく聞いた。

少し躊躇って、「実はね……」と口を開いた時に聞かされた。あの娘には好きな人がいた。


聞けば好きな人と休み時間に話す機会があって嬉しかったとの事。その時あの娘は目をキラキラ輝かせては僕にその話をした。授業そっちのけでほんの数分前の思い出を語りきった後に

「この事、誰にも言わないでね?」

と、内緒の約束を強要された。

「クラスで一番モテるあいつが好きだってこと?」

と少し意地悪な返答をしてみたら、あの娘は頬を膨らませながらじーっと僕を睨んでくる。

「言わないよ、応援してる。」と言ったらあの娘はすぐ笑顔になり「うん!」と答えた。

とても健気で、素直に実ってほしいなと思った。




ある日、授業が自習になった。何があったのか先生は自習とだけ言い残し教室を出た。残された生徒は各々教室で宿題なり読書やおしゃべり等々、割と自由な時間を得た。僕もこの時間をどう過ごそうかと考えながら、先生がいない状況に気分が上がる。隣を見たらあの娘は、うつ伏せで寝ていた。


こんな暑い教室でよく寝れるな…

そう思ってあの娘を見てたら暑そうにして、うなされていた。それはそうだ、殆どの生徒が適当なファイルをうちわ代わりにしてパタパタ扇いでる程だ。僕だって例外なくそうしている。



…まったく。


僕はファイルで自分を扇いでるフリをして

あの娘に風があたるように扇いだ。


団扇で仰ぐ感じの奴隷、いるよな〜。なんてくだらない事を考えながら、ただあの娘に風を送り寝ている所をひたすら眺める。

ほんの少しだけ見える寝顔はどこか気持ちよさそうで、可愛いな、と素直に思った。


また、あの娘の半袖制服は袖が折り曲げられていて白く細い二の腕が大いに露わで目に留まる。

そんな姿を眺め続けていると、なんだか緊張したような感覚が押し寄せてきた。何故緊張しているのか理由がわからない。ただあの娘が隣で、無防備な状態でいる事が…



それから少しして寝ていたあの娘は起き上がった。一旦伸びをした後あの娘は、僕の方を見て

「涼しかったよ、ありがとっ」

と、いたずらそうに舌を出して笑って見せた。

その瞬間僕は緊張のピークに達した様な感覚に襲われ、反射的に目を逸らして机にうつ伏せ状態となった。まず気付かれていた事が恥ずかしくて悶えた。

目を閉じても僕を見るあの娘の顔が脳裏に焼き付き離れない。心臓の音が他人に聞こえているのではないかと思う程に煩い。どうする事も出来ない僕は自習の終わりまで寝たフリを続けて落ち着くのを待つしかなかった。少しして気付けば、あの娘の方からパタパタと風がくるのが分かる。恥ずかしさに追い討ちが掛かってしにたくなってきた。


チャイムが鳴った時、意を決して起き上がり僕は

「涼しかったよ。」

だけ何とか言えた

「え〜?なんのこと〜?」

にやにやしながら返答された。

…睨みつけてやった。

あの娘は悪びれもせずニコニコしてこっちを見た。

この一連のやりとりが面白くて僕は笑いだしてしまって、あの娘も続いてあははと声を出して笑った。

緊張も解けて、幸せな気持ちになっていったのを

とても強く感じたのを覚えてる。


その日以来、あの娘の事ばかり考えてしまう自分がいた。思えば顔も可愛い。女の子らしくて、一緒に話して楽しくて。小悪魔的なあざとい一面は僕的に刺さる部分で、僕はあの娘の事を好きになってしまったんだと。僕はあの娘ともっと一緒にいたい。


だけど僕はその気持ちに気付かないフリをした。

それは僕があの娘に「応援してる」と言ってしまったから。あの娘には好きな人がいる。僕が舞台に立つことはできない。と、言い聞かせて。




その先は、報われない自己犠牲の片思いが続いた。

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席替え あおいはがいじ @aoihagaizi

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