第30章~旬サイド~

翌日の昼休み。



昼ご飯を食べ終えたクラスメートたちは元気よくグランドへと駆けだして行く。



そんな中、新はまたマンガを開いて読み始めた。



わざとらしく、声を出して笑っている。



俺は窓からグラウンドを見下ろした。



みんなはサッカーを始めたようだ。



照りつける太陽の下、グラウンドで砂ほこりを上げながら走るクラスメートたち。



その姿はキラキラと輝いて見えた。



本当ならあの中に新もいるはずだったんだ。



今はもう誰にも誘われなくなった遊びだけれど、一緒になってやっているはずだったんだ。



そう思うと胸が痛くなって、俺は制服の胸元をギュッと握りしめた。



そして体を反転させ、大股で教室を出た。



新が驚いたように後を付いてくる。



それでも俺は歩調を緩めなかった。



階段を下りて、グラウンドへ真っすぐ向かう。



『なにしてんだよ旬!』



新が後ろから声をかけてきても返事はしなかった。



返事をしたら、足が止まってしまいそうだったから。



きっと自分にだってできる。



そんな自信があった。



だって、2年生のころ退院していらい一度も入院していなかったから。



6年生になって教室が最上階の3階になっても、毎日息切れせずに階段を上がることができているから。



相変わらず月1度は通院をしているけれど、その時の検査で先生はニコリと笑って『いい調子だね』と言ってくれたから。



だから、少しくらい大丈夫だ。



その姿を新に見せたかった。



俺のことはもう気にしなくていいからと。



友人が蹴ったボールがちょうど俺の近くに飛んできた。



その時俺は思いっきり走っていた。



ボールに追いつけと。



足が勝手に前に出る。



新がなにか叫んだけれど、それも聞こえてこなかった。



目の前に飛んできたボールを右足で思いっきり蹴り返した。



足がボールに当たる確かな感触。



そしてボールは弧を描き、飛んでいく。



ほら……できた……!



一瞬、自分もキラキラと光ることができたと思った。



ついさっき、窓から見たみんなと同じように輝いていると思った。



でもそれはつかの間のことだった。



足を戻した瞬間、ドクンッと心臓が高鳴った。



それは嫌な合図だった。



入院前に感じたあの苦しさ。



入院中、何度も経験したあの恐怖が舞い戻ってくる。



俺はそのまま横倒しに倒れていた。



真っ青な空の中、新の顔が見えた。



みんなが駆け寄ってくる姿も見えた。



でも俺はなにもできない。



ただ呼吸ができなくて、手を伸ばして助けを求める。



そして、意識を失った……。

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