第29章~旬サイド~
そんなことが起きた後でも、新はずっと俺と一緒にいてくれた。
だんだん新から友達が遠ざかっていって、だんだん新を誘う友達もいなくなっていって、だんだん新から笑顔が消えていった。
『どうして外で遊ばないんだよ』
6年生になったころ、俺は見かねてそう言った。
相変わらず先生は俺と新を同じクラスにして安心しきっている。
だけど俺はそのことも不満だった。
もういい加減1人でだって大丈夫だ。
医者に言われたことを守っていれば、俺は日常生活を送ることができるんだから。
それなのに新が一緒じゃないとダメだと言われているような気がして、気分が悪かった。
『なんだよ急に』
新は手元のマンガに視線を落して行った。
低学年の時はぬり絵や折り紙だったけれど、今の休憩時間の遊び方はもっぱらマンガだった。
特に流行りの冒険マンガを読むのが俺も新も好きだった。
『俺に合わせる必要はないって言ってるんだ』
『別に合わせてなんかない』
新はやっと顔を上げ、そしてそう言いきった。
俺は奥歯を噛みしめる。
『本当はどうなんだよ? 本心を教えてくれよ』
2年生のころ太田は言っていた。
新は一番運動ができるんだと。
新はそんなことはないと笑って否定したけれど、太田の言葉は今でも俺の心の中に残っていた。
『俺はいつでも本心を言ってる』
新はそう言うと、ひとつあくびをしてトイレに言ってしまった。
教室に残された俺は机に置かれたマンガ本を睨みつけた。
新と俺は2人で1人だ。
だって双子だろ。
誰よりも近い存在だ。
それなのに新は俺に本心を隠している。
そう思うと途端に憤りを感じた。
なんでだ?
俺は新が運動が得意だとしても嫌いになんてならない。
他の友達と遊んでいたって、嫉ましいなんて思わない。
それなのに……!
そこまで考えた時、女子生徒が俺に近づいてきた。
隣りの6年2組の生徒で、学年で一番可愛いといわれている子だ。
そんな子がいきなり教室に入ってきて、真っすぐ俺に近づいてきたものだから動揺した。
目を泳がせて『な、なに?』と聞く。
するとその子は大きな目をこちらへ向けた。
『あたし、2年生のころまで新のことが好きだったの』
その言葉に俺はキョトンとしてしまった。
まさか、俺と新を見間違えて告白でもするつもりかと思った。
でも、違った。
女の子は見間違いなんてしていなかった。
『でも、旬が来てから新は変わった』
『え?』
突然の言葉に返す言葉が見つからなかった。
『新はもっと活発で、運動がよくできて、かっこよかった。それなのに、旬が来てから教室にこもるようになって、全然かっこよくなくなった』
言葉がいちいち胸に突き刺さる。
外で遊ぶ子は明るい子。
教室で遊ぶ子は暗い子。
そうやって決めつけてくる大人を連想させた。
だけど女子生徒がいいたことは痛いほど理解できた。
俺だって、新のしたいことをしてほしいと思っていたから。
そしてそれは教室でずっとマンガを読んでいることじゃないと、わかっていたから。
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