第28章~旬サイド~
休憩時間になるとみんな廊下や中庭にかけだして行って、縄跳びやボールを使って遊ぶのだ。
でも、もちろん俺はそんな遊びができない。
教室に残り、本を読んだり、折り紙をするしかない。
『新! ドッヂボールしようぜ!』
『ごめん。今日はパス!』
数人のクラスメートたちは舌打ちをして教室を出ていく。
それを見て俺は少し不安になった。
『新、ドッヂ行かなくていいのか?』
『運動苦手なんだよ。知らなかった?』
新はそう言ってぬり絵を始めた。
そっか。
そうだったんだ。
一緒に学校に通えていないから知らなかったんだな。
俺はそう解釈をして、新と一緒にぬり絵を楽しんだ。
でも、それが嘘だとわかったのは1週間ほどたった時のことだった。
休憩時間中、新はトイレに言って俺はいつも通り折り紙で遊んでいた。
最近ではツルをうまく作れるようになっていて、それが楽しかった。
そんな時だった。
『おいお前!』
乱暴な声が聞こえてきて視線を向けると、クラスで一番体格のいい太田くんが仁王立ちをして俺を見下ろしていた。
太田くんの後ろには他の男子たちもいる。
『なに?』
『女みてぇなことばっかりしてんじゃねぇよ!』
太田くんは俺の机の上にあった折り紙をわしづかみにすると、投げ捨てたのだ。
突然のことで目を丸くして太田くんを見つめる。
『なにするんだよ!』
『お前が来てから新が俺たちと遊ばなくなったんだぞ!』
今度は机を蹴られた。
机は大きな音を立てて横倒しに倒れる。
女子たちが悲鳴をあげて『先生呼んでくる!』と、廊下へ駆け出した。
俺は立ちあがり、自分より背の高い太田くんを睨みつけた。
『太田くんたちはドッドボールやサッカーばかりしてるからじゃないか。新は運動が苦手なんだ』
そう言い返すと、太田くんたちは互いに目を見かわせた。
そして大きな声で笑い出したのだ。
『な、なにがおかしいんだよ』
笑い声に圧倒されて後ずさりする。
『お前兄貴なのに知らないのかよ。新は2年生の中で一番運動が得意なんだぞ』
『え……?』
太田くんの自信満々な言葉にたじろぐ。
『そ、そんなの嘘だよ。だって、新は僕に言ったもん。運動は苦手だって!』
反論しながらも、心臓は早鐘を打ち始めていた。
まさか新は嘘をしていたのか?
俺と一緒にいるために、ずっと遊びの誘いを断っていたのか?
嫌な汗が噴き出した時、新が教室に戻ってきた。
一見してなにがあったのか理解したようで、目を見開くと同時に駆け寄ってきた。
『お前ら旬になにしてんだ!』
自分より大柄な太田くんへ向けて怒鳴る。
その声があまりにも大きくて、こんどは太田くんがたじろいだ。
『新を自由にしてやろうと思ったんだよ』
『なにわけわかんないこと言ってんだ!』
このままじゃまずい。
新の仲間は俺しかいないけれど、太田くんの仲間は沢山いる。
喧嘩をしても勝てっこない。
『新、僕は大丈夫だから』
俺は新の手を掴んで言った。
しかし、新は太田くんを睨みつけたまま目をそらさない。
どうしよう。
このままじゃ収集がつかない。
そう思った時だった。
女子生徒が先生を連れて戻ってきてくれたのだ。
『こら、なにしてるの!』
目を吊り上げて怒る先生の姿に、さすがの太田くんもひるんでいる。
『だって先生、こいつが!』
大田くんは俺を指さす。
それを見た先生は更に怒り始めた。
クラスメートをこいつと呼ぶんじゃありません!
机を倒したのも太田くんですか?
ちゃんと謝って、自分で直しなさい!
散々怒られた太田くんは唇を引き結び、涙目になって机と散らばった折り紙を元に戻した。
最後には俺にちゃんと謝ってくれたけれど、その目は怒りに震えていたのを、今でも覚えている。
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